大切なのは 魂に刻まれる記憶
能楽の稽古を始めてあっというまに
25年くらいが経過しました。
とはいえ、途中では仕事が多忙になって
休んでいたこともあり、前の師匠が亡くなって
今の師匠に辿り着くまでには
しばらく時間があいてしまったこともあったので、
実質、稽古をした年月というのは、もっと短いものになるでしょう。
それにあくまでも趣味の一環として
楽しみながら取り組んでいたこともあり、
時間としては長く稽古していたわりには全く未熟で、
間違いも多発します。
それでも徐々に能楽の深い醍醐味を
感じるようになってきたように思います。
能楽の稽古では、お謡いとお仕舞をしていますが、
今、習っているお仕舞が『班女』という曲です。
この曲は、美濃国野上の宿
(今の岐阜県不破郡関ヶ原町野上)の遊女、
花子と東国へ行く途中、花子のいる宿に投宿した吉田少将の物語。
二人は恋に落ち、互いに扇を交換して、将来を約束して別れます。
以後、花子は少将を想って毎日扇を眺めて暮らし、
宴席の勤めに出なくなり、
人から「班女」というあだ名で呼ばれることに……。
班女というのは、中国は前漢の時代に
成帝の寵妃であった班婕妤(はんしょうよ)のこと。
趙飛燕に寵愛を奪われた班婕妤は、
秋には捨てられる夏の扇に自らをたとえた詩
「怨歌行」を作り嘆き悲しみました。
以来、「捨てられた女」のことを「秋の扇」と呼び、
この故事にちなんで、約束を交わした男が置いていった
扇をひたすら眺め暮らす花子を「班女」という
あだ名で呼んでいたわけです。
物語としては、吉田少将だけのことを思い続け、
仕事をしない花子を苦々しく思った宿の女主人によって、
宿から追い出された花子は狂女となり、
京の都までさまよい歩いていると、
そこに花子を探し求めていた吉田少将が現れます。
最初は認識できなかったものの、
互いに手に持つ扇の存在を知り、
確かめ合ってハッピーエンドを迎えるという内容。
舞の部分は、ひたすら恋する殿方を思い、待ち、
偲ぶ女性の姿を表現しますから、
私のキャラではなかなか難しい役どころ。
でも実は15年くらい前に、
渋谷にあるセリルアンタワー能楽堂で舞ったことがある、
懐かしい曲でもあるのです。
しかも前の師匠が大好きな曲だったこともあり、
特別な感情があります。
今回、久しぶりに「班女」の型付を見て、
最初はすっかり忘れていたものの、
しばらくすると不思議なことに、
シテ謡いの詞章もすらすらと出てくるし、
舞の部分も身体が自然に動きます。
初めての曲を学ぶときの苦労とは全く異なるわけです。
かつては特訓して、一生懸命に覚えたこともあり、
意識の上では忘れているようでも
潜在意識にはしっかりと刻まれていたのでしょう。
こうして考えてみると、
私たちは死んでしまえば肉体から離れ、
全てのものを手放さねばなりませんが、
生きている間に学んだことや得たことは魂に刻み付けられ、
アーカイブとして次なる世にも
持っていけるのではないかという気がしてきて嬉しくなります。
あの世とこの世を結ぶ芸能、能楽は
そんなことさえも教えてくれるようです。
━━━━━━━━━━━━━━
プロフィール
━━━━━━━━━━━━━━
宮西ナオ子(みやにしなおこ)
生き方研究家・Ph.D.(博士/総合社会文化)、
総合社会文化ライター・作家、
エッセイスト・インタビュアー、女性能楽研究家、
愛玩動物飼養管理士、
アルケミスト認定ユニバーサルヒーラー、
アルケミスト認定アニマルコミュニケーター。
上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、
広告代理店、旅行代理店を経、
トラベルライターからフリーライターに。
環境問題、美容と健康関連、生き方についての
記事を新聞・雑誌・単行本等に執筆・講演。
経営コンサルタントの船井幸雄氏関連の
仕事と産経新聞の夕刊特集担当、
がん専門誌の記事執筆に携わる。
2001年には日本大学大学院総合社会情報研究科文化情報専攻入学。
2003年修士取得、2006年、女性が演じる能楽について
研究しPh.D.(博士/総合社会文化)取得。
同時に当時注目された書籍
『朝2時間早く起きれば人生が変わる!』や
『男性更年期はリニューアルの時』
『発酵のチカラ』『眠る前の7分間』
『女性と能楽』など関連のテーマで地方自治体、
倫理法人会ほか各地で講演活動などを行う。
また大手企業に「誉める技術とコミュニケーション」
「聞く力」などのセミナーも行う。
2013年、東久邇宮文化褒章受章。
東京新聞でペットと有名人のコーナーを担当し、
アニマルコミュニケーションやエネルギーワークなども学ぶ。
メルマガ解除はこちら
解除専用ページURL
記事一覧
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ インターネットラジオ生放送 悠里江のハッピー人生 ■タイトル■ 美しき ガラス工芸の世界 8月12日火曜日 放送時間1
2025年08月11日
能楽の復興と明治知識人の役割 明治~昭和初期の能楽を愛した 文人・科学者たち
昨今、日本の伝統芸能、能楽に対して興味を抱く方が多いような気がします。 これはとても喜ばしいことです。 歴史的にみてみると、日本が近代国家として発展したきっかけとなった明
2025年08月09日
8月のイベント✨ どなたでもお申込いただけます✨ +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:+ 超一流の上質な空間での 経営者の会食交流会✨ 【SLPA会議】に 参加し
2025年08月08日
こんにちは、梅田紀美子です! 2025年8月2日から8月14日までは「青い猿」13日間で、 キーワードは 「高い精神性 精神的生命を育む トリックスター」。 「精神世界」
2025年08月06日
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ インターネットラジオ生放送 出版してみよう ■タイトル 『今の時代に必要な アーユルヴェーダとヨガ その道の大家に聞く」
2025年08月04日
8月5日の鳥越アズーリFN 「出版しよう」のゲストは アーユルベーダとヨガの第一人者 西川眞知子先生です! お楽しみに♪
アーユルヴェーダはインドで生まれた伝統医学。 治療というよりも「未病」を提唱し、 世界で一番古い「リバースエイジング」的な 考え方を説いています。 それを誰もが簡単に身に
2025年08月03日
8月のイベント✨ どなたでもお申込いただけます✨ +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:+ 超一流の上質な空間での 経営者の会食交流会✨ 【SLPA会議】に 参加し
2025年08月01日
こんにちは、梅田紀美子です! すさまじい暑さが続いておりますが、 体調管理、しっかりなさってくださいませね。 さて、7月20日から始まった「白い鏡」13日間も明日が最終日。
2025年07月31日
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ インターネットラジオ生放送 運気ナビ ■タイトル「笑顔と感謝と運気!」 7月29日火曜日 放送時間16:00〜16
2025年07月28日
シンシキ出版より 素敵な新刊のお知らせ 『ヤッコ先生の未来をひらく 夢実現の方程式』 (宮西ナオ子著:久野康子:談)
このたびシンシキ出版より新刊リリースしたのが、『ヤッコ先生の未来をひらく 夢実現の方程式』です。 教育者であり、夢実現のプロとして、長い間、実力を発揮している久野(小林)
2025年07月26日
7月8月のイベント✨ どなたでもお申込いただけます✨ +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:+ 超一流の上質な空間での 経営者の会食交流会✨ 【SLPA会議】に 参
2025年07月25日
こんにちは、梅田紀美子です! 2025年7月20日から「白い鏡」期間がスタートしました。 8月1日までの13日間で、キーワードは 「永遠性のある秩序 調和 映し出す」。
2025年07月23日
-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ インターネットラジオ生放送 ボイスでプロファイリング ■タイトル「フラメンコ舞踊の伝道師」■ 7月22日火曜日 放送
2025年07月21日
7月8月のイベント✨ どなたでもお申込いただけます✨ +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:+ 超一流の上質な空間での 経営者の会食交流会✨ 【SLPA会議】に 参
2025年07月18日
こんにちは、梅田紀美子です! 本日2025年7月16日は、 「K114 白い魔法使い&赤い蛇 音10」です。 7月7日から始まった「赤い蛇」13日間の10日目。 「赤い蛇
2025年07月16日