ヒューマンサクセスサイエンスユニバーシティについてご案内しています。

　5月2日に表参道にある銕仙会能楽堂にて能楽フェスティバルが開催されます。
そこで現在の師匠、観世流能楽師浅見慈一師匠の元、
『天鼓』の仕舞を舞うことになりました。

　私はこれまで能楽の仕舞と謡を学んできましたが、
一般的に素人が発表会などのチャンスを利用して
舞台で舞ったり謡ったりできるのは、
年に1回か2回のことです。

　大学院では英語能『ハムレット』をゼミで開催していたこともあり、
地方にも出かけて舞台に参加させていただくチャンスもありました。
熱海のＭOA美術館能楽堂、大阪は堺能楽会館、京都の能舞台豊響殿、
そのほか大阪の大学、宮古島や米沢などの能舞台や会館などでも
演じることができました。
今も、その当時に緊張や喜びを懐かしく思います。

　このような体験の中で、
『天鼓』という曲については並々ならぬ思い出があります。

　2013年の春のことです。
毎年、ジャスミンの香りが街に漂う頃、
当時、私が学んでいた師匠、観世流能楽師の足立禮子先生は、
渋谷のセルリアンタワー能楽堂にて「禮能会」という発表会を開催していました。

　この年、私は『天鼓』という舞囃子を舞ったのです。
舞囃子というのは地謡と囃子を従えて舞うものです。
そしてこの舞囃子の後、足立師からは記念の扇をいただいたのですが、
その年の秋、師匠は突然、帰らぬ人となりました。
享年88歳。亡くなる1か月前まで舞台に立って舞われていたのです。

　この師匠も大好きだった『天鼓』という能ですが、
これは、なかなか不思議な世界観の能なのです。
内容は中国は後漢の代の話。

　前場では不思議な鼓をもった天鼓という名の少年の父親が登場し、
皇帝と話をするのですが、なんと、その皇帝は、天鼓が持っていた鼓が欲しくて、
彼を殺害し、呂水という川に沈めてしまったのです。
現代人から見れば、なんと理不尽なことだと感じます。

　さらに皇帝の元に移った鼓は鳴らなかったので、
皇帝は天鼓の父・王伯（前シテ）を呼び出し、鼓を打つよう命じるのです。
これも、なんと、理不尽な！　あり得ないと思います。

　皇帝の前に現れた父親は、息子との別れを嘆き悲しみます。
当たり前の話です。
そして父親は息子の形見の鼓を打ちます。
すると誠に素晴らしい音色が響き、心打たれた皇帝は天鼓を弔うことにして、
父親は皇帝の元を去るのです。
ここまでの話は現代人からすると「ありえない」ことばかりです。
父親の気持ちを考えたら、やるせないだろうと思います。

　次に後場になり、皇帝一行が呂水のほとりで音楽法要を始めると、
天鼓の幽霊（後シテ）が現れ、音楽の興に乗じ、満天の星空の下で舞い戯れるという内容です。

　この前シテと後シテは同じ人が演じますから、
前場では悲壮感漂う父親を演じ、
後半は喜んで遊び戯れる天鼓の様子を舞うというわけです。
悲痛と歓喜。その二つの相反する感情の変化。
すごいシュールな世界観です。

　仕舞は後場の天鼓が喜んでいるところを舞うのですが、
この舞を舞っていると、天鼓の喜びが伝わってくるようで、
とても楽しくなってしまいます。
2013年に舞ったときは笑顔満面になってしまい、
見所にいた友人から「笑って舞っていたわね」と指摘を受けてしまったほどです。
今も稽古をしているだけで、ついつい破顔一笑してしまいます。
とはいえ基本的に笑顔で舞うことは許されないので、
この感情の流出を防ぐのが大変ですが、稽古に励む時間も楽しさが溢れています。



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　　　プロフィール
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宮西ナオ子（みやにしなおこ）

博士（総合社会文化）著述家　生き方研究家
女性能楽研究家、ジェム・ストーン・エナジー研究家

最新出版書籍
『菜食は素晴らしい~1週1菜の奇跡~」

『秘技の整体　アスリートから神様と呼ばれた安藤道彦』

『一扇　ICHISEN』

（ともにシンシキ出版）






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