ヒューマンサクセスサイエンスユニバーシティについてご案内しています。

　ジャスミンの香りが街に漂う頃、かつて私が師事していた観世流能楽師、
足立禮子先生が、毎年、渋谷のセルリアンタワー能舞台で「禮能会」を開催していました。

私も仕舞や素謡に参加させていただいていました。
なので今でもジャスミンの香りが漂う季節になると、
ふと、あの日々のなつかしい思い出が脳裏をよぎり、
郷愁を誘い、時空を遡り、心身共に、
舞いを舞うときの喜びと緊張する思いが交差します。
香りがもたらす過去の記憶というものは、
はかなくも美しいものですね。

　現在、私が師事している観世流能楽師の浅見慈一先生は、
「翠声会」という会を毎年、秋に開催されます。
そのため現在は、秋になり金木犀の香りを感じると、緊張感が走ります。
「お稽古、お稽古」と自分を鼓舞しつつ金木犀のかぐわしい香りの中を楽しみます。

　ジャスミンも金木犀も大好きな香りですから、
このかぐわしい香りとお能の結びつきに何か優雅な気持ちを感じます。

　さて、今年の春は、「青山銕仙フェスティバル」が表参道駅から5分ほどの銕仙会能楽研究所で開催されました。
今回、竣工40周年を迎えるということで、
これを祝し、開催される特別の会だそうです。

　銕仙会の歴史は長く、江戸後期の十五世観世左近元章師のときに分家し、
現在に至るまで観世銕之丞家を中心とした演能団体で、
そのメンバーである浅見慈一先生の社中でも数名の方が参加されることになり、
私も仕舞を舞わせていただくことになりました。

　当初は『天鼓』でしたが、膝の故障のため、屈伸が厳しく、
急遽、屈伸の少ない『班女』に曲を変更。
それでも当初は歩くのさえきつくて、参加できるかどうか不安でした。
そこで整形外科、内科、理学療法、浄化療法、サプリなど多くのドクターや専門家たちに話を聞き、
さまざまな取り組みをして、どうやら仕舞もできるようになりました。

　この能舞台には2度ほど仕事でお邪魔したことがあります。
1回目は近畿日本ツーリストの『旅の友』という雑誌の巻頭インタビューで観世榮夫 （1927−2007）先生を取材させていただきました。
昭和62年（1987年）の頃で、もう37年前のことです。
榮夫先生が日光山輪王寺で薪能を開催するにあたり、
能楽の話を聞きに行ったのでした。
当時の私は能について全く無知でしたが、
最初は沈黙されていた榮夫先生が能のお話をされるにつれて目を輝かせ、
感動的な言葉を伝えてくださいました。
「大切なのは全体の中で何が美しいのか感じていただくことです」という言葉が特に印象深く残っています。
そしてもう1回は大学院に入ってから上田ゼミで能『ハムレット』のオフィーリア役として、この舞台で舞わせていただいたことがありました。

　そして今年、2024年、この舞台で舞わせていただき、
特に嬉しかったことは、応援にきてくださった方からの感想でした。

　それは私が切戸口から舞台に出たとき、
「場の空気が変わった」といわれたことです。
この表現には感動しました。
というのも私が初めて足立禮子師を拝見した時、
私の得た大きな感動と同じ表現だったからです。

　2001年9月、国立能楽堂で演じられた上田（宗片）邦義先生作、能『オセロー』（シテ:津村禮次郎）の舞台で、後見としての足立先生が切戸口から登場した時、一瞬にして、場の空気が変わり、私は師の美しさに夢中になり、「このような美しい女性になりたい」と切望し、能を習うことになったのです。

　それから20数年、もちろん、まだまだ師の美しさには及びませんが、
少しでも近づけたと思うだけで幸せでした。
これからも精進・研鑽を続けたいと思います。


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　　　プロフィール
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宮西ナオ子（みやにしなおこ）

博士（総合社会文化）著述家　生き方研究家
女性能楽研究家、ジェム・ストーン・エナジー研究家

最新出版書籍
『菜食は素晴らしい~1週1菜の奇跡~」

『秘技の整体　アスリートから神様と呼ばれた安藤道彦』

『一扇　ICHISEN』

（ともにシンシキ出版）



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