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現在の価値観も変化する？

　時代によって人々から評価が変わる人物や事件があります。その時のインフルエンサーによって流布され広められ、そのまま人々が信じてきたことが、後の世の人々の価値観や研究により、歴史の見方が変わることがあります。

　そのような中で、最近、注目されているのが、江戸時代の5代将軍、徳川綱吉についての評価かもしれません。これまでの史料や偏った見方の報告が誇張されて伝えられてきた可能性があるということで、近年では綱吉の政治に対する評価の再検討が行われているといいます。

　例えば綱吉が発布した「生類憐れみの令」。子供の頃、歴史の授業で習ったときは、「悪政」のひとつとして評価されていたような記憶があります。とはいえこれは「生類を憐れむ」ことを趣旨としており、動物や嬰児、さらには傷病人保護を目的としているわけです。そして対象とされた動物は、犬、猫、鳥、魚類、貝類、昆虫類などにまで及んだといいますから、このコンセプトは、動物愛護の精神にも基づく素晴らしい考え方ではないのかと思いました。とはいえ当時は、綱吉の悪政について比重を置いて学んだために、何となく腑に落ちない部分がありました。

　綱吉は34歳で将軍職に就き、64歳で亡くなりましたが、綱吉の治世の前半は、善政を行い、「天和の治」といわれました。父・家光の影響もあり、儒教を学んだことも大きかったのではないかといわれます。歴代将軍の中でも最も尊皇心が厚かったとしても知られ、「徳を重んずる文治政治」を推進し、「四書」や「易経」を学び、湯島聖堂を建立しています。とても学問好きな将軍だったということで、ライフプロファイリングの「ナインパーソナル」で考えると「智」の人だったのかもしれません。江戸で綱吉に謁見したドイツ人の医師、エンゲルベルト・ケンぺルは、その著『日本誌』の中で、「非常に英邁な君主であるという印象を受けた」という記述も残しているほどです。

　ところが後半になると、「生類憐みの令」などにより幕府の財政を悪化させ、「側近の寵臣以外の意見を軽視し、悪法で民衆を苦しめた」というネガティブな評価がなされてしまいます。これは不幸にも彼の晩年期に頻発した地震や噴火などの度重なる自然災害や飢饉などによる人々の苦しみにも起因されているようですし、綱吉亡き後、6代将軍徳川家宣の侍講として幕政を実質的に主導した新井白石の、いはばネガティブ・キャンペーンの影響もあるのかもしれません。

　新井白石は、「正徳の治」と呼ばれる一時代をもたらしました。家宣の死後も7代将軍の家継に仕え、吉宗が8代将軍に就くまでの間、大きな影響力をもちましたが、吉宗の代になると、失脚して引退し、晩年は著述活動に勤しんだといいます。

　ここで、白石は、綱吉の悪政が天変地異をもたらしたと述べ、これよりひどい悪政はその類を見ないとまで酷評したわけです。そんな彼の発言も大きかったのではないでしょうか？

　ところで綱吉の功績には、もうひとつ、喜ばしいことがあります。彼の治世下では、近松門左衛門、井原西鶴、松尾芭蕉などの文化人が活躍したこともありますが、何よりも綱吉自身が能楽を愛し、自ら舞台に立って舞ったといいます。さらには古曲を復曲させて上演。綱吉の時代に復活した曲は41番。そのうち20番は現在まで演じられており、「大原御幸」や「蝉丸」などは現行曲としても人気が高い番組です。本当に素晴らしい曲を復曲していただき、ありがたいことだと感じます。

　さて、現在もさまざまな事件や人物に対していろいろな報道がなされ、時にはネガティブ・キャンペーンにより偏った見方をしてしまうことがありますが、100年後、200年後にはどのような評価がなされるのか……。未来から俯瞰して考えてみるのも赴き深いものです。


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　　　プロフィール
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宮西ナオ子（みやにしなおこ）

博士（総合社会文化）著述家　生き方研究家
女性能楽研究家、ジェム・ストーン・エナジー研究家
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