「代筆してもらえない」が過去になる日 ── マイナポータルとAIエージェントの接続構想から考える
河和旦のアクセシブルワーク通信 第7号
2026年8月27日発行
発行:株式会社ふくろうアシスト 河和 旦
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○○ さん
こんにちは。当事者の実践とAIで、視覚障害者の「働く」をアクセシブルに!
視覚・肢体障害当事者AI活用支援コンサルタント 河和 旦(かわ ただし)です。
8月も終わりに近づいてきましたが、ゲリラ雷雨や厳しい暑さなど、不純な天候が続いていますね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今号は、少し先の話にはなりますが、行政手続きのあり方を根本から変えるかもしれない、ある政府方針についてお伝えします。
■ 今号のメインコンテンツ
「代筆してもらえない」が過去になる日 ── マイナポータルとAIエージェントの接続構想から考える
先日、政府が公表した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の中に、気になる一文がありました。
2027年度を目途に、マイナポータルと外部のAIエージェントを安全に接続する基盤(MCPという規格が土台になるとみられています)を構築する、という方針です。
出産や介護、引っ越しといったライフイベントの際、申請者側と行政側それぞれのAIエージェントが連携し、手続きの多くを自動で進められるようにする。そんな将来像が描かれています。
この話を聞いて、私は真っ先に「代筆」のことを思い浮かべました。
視覚障害のある方が役所に申請書を出そうとするとき、多くの場合、同行援護のヘルパーさんなどに代筆をお願いすることになります。ところが、この「代筆」が、思っている以上にハードルの高い作業なのです。
私自身、これまで支援の現場を見てきた中で、こんな場面に出会ってきました。
申請書に不慣れな若手のヘルパーさんが、どこに何を書けばよいのか分からず手が止まってしまう。
利用者が口頭で説明した内容を、その通りに書き起こせない。
例えば私の名前「河和」は「さんずいのかわ」に「へいわのわ」の2文字で「かわ」と読みます。
これを「さんずいのかわに、へいわのわで『河和』です。」と説明しても川(やまかわのかわ)を書かれてしまって、申請不備となってしまうことが起こります。
住民票や課税証明書など、複数の書類を見比べながら記入すべき項目を特定する作業に、苦手意識を持っているヘルパーさんが少なくない。
そしてもう一つ、特に印象に残っているのが、視覚障害への理解が十分でないヘルパーさんとのやり取りです。
「それ」「あれ」「そこ」といった指示語だけで説明されてしまい、目の前に何があるのか、書類のどこを指しているのか、具体的に分からない。晴眼者同士なら視線や指差しで伝わることが、視覚障害のある当事者には届かないのです。
こうした場面を重ねるうちに、私は「代筆ができるかどうかは、ヘルパーさん個人の力量や経験に大きく左右されてしまう」という、支援の構造そのものに課題があると感じるようになりました。ヘルパーさんの側に悪気があるわけではありません。研修の機会や実践の場が、まだ十分に整っていないのだと思います。
もし、マイナポータルとAIエージェントが直接つながり、視覚障害のある当事者が自分の言葉でAIエージェントに申請の内容を伝えるだけで手続きが完結する未来が来たら、どうでしょうか。
「ヘルパーさんが代筆に不慣れだから、今日は申請できない」
「指示語だらけの説明では、何を書いてほしいのか分からなかった」
こうした、支援者の力量に起因する足止めから、当事者自身が解放される可能性が出てきます。
もちろん、良いことばかりではありません。
AIエージェントとのやり取りには、ある程度のITリテラシーが必要です。スマートフォンやパソコンの操作に不慣れな方、特に高齢の視覚障害者の方にとっては、かえってハードルになってしまう可能性もあります。奇しくも、ヘルパーさんとのコミュニケーションに苦労してきた方ほど、こうした新しい技術の恩恵からも遠ざかってしまうかもしれない、という懸念も残ります。
それでも私は、この構想を前向きに捉えています。
「代筆をお願いできる誰かがいるかどうか」という、いわば運任せだった部分が、当事者自身の意思で完結できる選択肢に変わる。それは、点字やスマートグラス、人的支援と並ぶ、もう一つの「自分に合った手段」が増えるということだと思うからです。
政府の検討はまだ始まったばかりで、実際に使えるようになるまでには時間がかかりそうです。それでも、当事者や支援の現場からの声を、早いうちから届けていくことには意味があると考えています。私自身も、中央区視覚障害者福祉協会や中央区障害者団体連絡協議会での活動を通じて、この動きを注視し、必要な提言をしていきたいと思います。
■ お知らせ
ふくろうアシストでは、視覚障害当事者の方向けのICT・AI活用支援に加え、就労支援に関わる方向けの研修、企業の人事・DEI・CSR部門や経営層の方向けの講演も行っています。ご関心のある方は、以下のページをご覧ください。
ICT・AI活用支援:https://fukurou-assist.net/ict-ai-support/
職員向けAI活用研修:https://fukurou-assist.net/staff-training/
企業向け研修・講演:https://fukurou-assist.net/corporate-training/
■ 編集後記
「代筆」というテーマは、私にとって身近でありながら、なかなか外に向けて言葉にする機会がありませんでした。今回、政府のAIエージェント構想をきっかけに、あらためて現場で感じてきたことを整理してみると、課題の根っこが一つではなく、いくつかの層に分かれていることに気づかされました。次号では、また別の角度からアクセシビリティの話題をお届けしたいと思います。
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