「あいだの力学」の月刊メールマガジンです。 毎月11日に発行されます。

　　　　　「あいだの力学」の気になる間の話
　　　　　　----------------------------　　2020/03/11

皆さま、こんにちは！

東日本大震災から9年が過ぎ、10年目を迎える今年。みなさまいかが
お過ごしでしょうか？

昨今の新型コロナウイルスとトイレットペーパーの買い占め騒ぎを
みていると、あれほどの大災害とその後の混乱の経験を経たにも
関わらず、わたしたちは、先行きが見えない状況に対する不安や
怖れの感情をコントロールできず、理性を失った行動をしてしまう
ことがあるようです。

今一度、世界から称賛された9年前のことを思い出し、日本人らしく、
理性的に対処していきたいものです。

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【今月の気になる間の話】

●「社会」と「出来事」とのあいだがら

新型コロナウイルスによる感染症と、それに関連した出来事、特にダイヤモンド
プリンセス号での出来事に関して、わたし(和氣ひろゆき)自身の体験から感じる
ことがあるので、この場を借りて話そうと思います。


今から20年位前のこと。家電メーカーのエンジニアとして働いていたわたしは、
携帯電話、今でいうところの「ガラケー」のソフトウエア（プログラム）の開発
をしていました。

2月のある日のこと。4月からの新生活の時期に合わせて販売される予定の、
新機種(＝製品)の件で上司に呼び出されました。工場生産の前に実施する検査
(出荷前検査)で不具合が見つかった。現地のエンジニアによる調査では、その
不具合に、どうもわたしが担当したソフトが関係しているらしいとのこと。

前年に発売した機種に致命的な不具合が見つかり、その回収と修理とで、大変な
騒ぎになったばかり。現地に飛んで不具合を直し、1週間後の工場出荷の期限に
間に合わせて欲しいとの話。確か夕方に職場(大阪)で話を聴いて、翌日の朝の
飛行機で、検査をしている札幌に移動したように覚えています。


現地のエンジニアから状況の説明を受けて、早速調査を開始したものの…
全く思うようにいきませんでした。

不具合がなかなか再現しないんです。

…だけれども、確率的にみて必ず起きる現象のうえ、起きたときには、必ず
致命的な結果になってしまう。

例えるなら弾倉が100発ある拳銃で、「ロシアンルーレット」をしているような
もの。起きても結果が深刻でないのなら、「とりあえず」の回避手段が使えるの
になあ…と正直思ったものです。

不具合の再現方法をみつけるための試行錯誤を、みんなで何べんも繰り返して
いるうち…ふと時計をみると夜の10時。遅いので一旦ホテルに帰って、また明日
にしようかと帰り支度をしていたときに電話がかかってきました。

深夜の12時から、今後の方針を決めるTV会議をするから、準備をしておくように
…との電話が部長※1から。結局そのままTV会議に出席→終わったときには朝の
5時。遅い夕飯を食べてそのまま出勤→夜の10時まで分析→12時から役員向けの
TV会議で状況の報告→朝の5時に会議を終え、夕飯を食べてそのまま出勤…

今からみるとホントにムチャクチャな話。しかも悪いことに、不眠不休で
頑張っているにも関わらず、3日経っても安定した再現方法が全然みつから
ないんです。

大した進展がないまま、時間ばかりが過ぎていく。
TVの向こう側にいる役員の言葉も、だんだんとキツイものに。

　「○○なんてやっているからダメなんだ！」
　「もっと効率的にしろ！」
　「あたまを使え！あたまを！」
　「そんなヒマあるのか！」

…そしてとうとう、そのまま期日を迎えてしまいました。

　「おまえ、今日を過ぎると、
　　　会社が100億の損害を被ることを知っているのか！」

　「…それでも、ダメなものはダメなんです…」

役員からのプレッシャーと、徹夜続きでもうろうとしている意識の中、
絞り出すように出てきた言葉が、その言葉でした。


期日を過ぎた次の日。TVの向こう側で会議に出席していた、エンジニアのRさん
が、わたしたちが頑張っている現場を見に来てくれました。

そして、わたしたちの様子を見て一言。

　「TV会議での役員向けの報告はオレが引き受けるから、
　　　オマエは問題を何とかしろ！」

強面で、正直「ちょ～っと苦手」と思っていたRさんから、その言葉をきいた
とき、「助かった～！これで少し寝れる！」と、わたしを含め、その場にいた
エンジニアたちは、みんなそう思ったに違いありません。

そして1日2～3時間にしろ、毎日「眠れる」ようになったことは大きな転換点に
なりました。

ほどなく、不具合が再現するときはいつも、機器に電源を供給する装置に取り
付けられている、「あるメーター」の針が大きく動くことに、エンジニアの
ひとりが気づき、そこから再現方法が見つかったのです。

最終的に期日から1週間遅れましたが、無事原因を究明し、対応策※2を講じる
ことができたのです。


さて…そんなこんなで、無事難題をクリアしたわたしたち。その後どうなったと
思います？

不眠不休で頑張ったのだから、「称賛されるヒーロー」

…と思いきや(!?)

「100億の損害を作った張本人」として、非難される立場になっていたのです。

　「あいつはガンコでわがままなんだよ！」
　「あいつは事業をわかっていない！」
　「まあ、若いから…ホント仕方がないよね」

「組織として、起きたことに対する『何かの理由』が必要なんだよ。
　良いときには良いなりの。悪いときには悪いなりの。それがないと
　治まらないんだ。
　和氣君はまだ若いんだから、責任を取らなくていいじゃないか。
　だから、そうなったんだよ。」

上司からそう言われたとき、あまりの不条理さに、言葉が出ませんでした。


ダイヤモンドプリンセス号に関連するニュースをみて感じるのは、自分が体験
した、組織が「理由」を探そうとすることと同じ現象が、起きているんじゃ
ないかということです。組織が悪い理由を探すのなら、より大きな集団である
社会でも、悪い理由を探すと思うからです。

結局のところ、何か起きていたかどうかは現場にいないとわからないと思うし、
与えられた状況の中で全力を尽くすのが日本人だと、ぼくは信じているので、
検疫官や医療関係の人たち、政府の現場担当者は、ともかく頑張ったんじゃ
ないかと思うし、現場の人たちを責めるのは何かが間違っているように、
ぼくは思うのです。


（ひろゆき）

※1 当時勤めていた会社では「部長」も上から下まで何階層かありました。
　　電話をかけてきた部長は、「常務」になる一つ手前の「(上位の)部長」

※2 結局のところ不具合の原因は、わたしの担当部分ではなく、あらかじめ
　　書き込まれていた設定データにミスがあったために起きたことがわかり
　　ました。データを正しいものに修正することで解決となったわけです

※3 「クルーズ船の隔離は「失敗」だったのか、専門家が語る理想と現実」
　→ https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92597.php

※4 PCR検査Q&A
　→ https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2735521836501306&id=100001305489071


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