ベストセラーは「異端」から生まれる
出版マイスター・越智秀樹です。
今回のメルマガは長文です。時間のない方は読み飛ばしてください。
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2005年のこと。
編集部に所属していた僕は、深く深く悩んでいました。
どれくらい悩んでいたかというと……
編集者になりたくて出版社に入ったにもかかわらず作った本があまりにも売れないため、自ら、
「編集者が向いてないと思います。ですので、前の部署(法人営業)に戻らせてください」
と願い出るほど追い込まれていました。
直属の上司は、
「編集者になってまだ3年。もう少しがんばってみたら……」
と言ってくれます。
しかし、そんな部下想いの言葉も、当時の僕には届きませんでした。
作った本があまりにも売れないことで、自分の中の空虚なプライドは粉々に砕け散り、そんな自分に嫌気がさしてはまた落ち込むという負のスパイラルに陥っていたからです。
マイナス思考に取りつかれていた僕は、上司の温情にこたえるどころか、さらに上の部長に掛け合うことで、強引に元の部署に戻ろうとしていました。
部長からは、
「あちらの部署との調整はできた。ただ、引き継ぎ期間が必要なため、来年3月まで待ってほしいしいそうだ」
といわれ、そこから1年弱、編集部に残ることになりました。
そこで、自分の中でかすかに芽生えたのが、
「異動する前に、自分が本当に読みたいものを真剣に考えて企画にしてみよう」
ということでした。
それまでの僕は、書店で売れている本を見つけてはそれに寄せた企画を考えたり、予め上司の意見を聞いて、決裁が通りそうな企画だけを提出することに終始していました。
いわゆる「予定調和」の仕事をしていたのです
しかし、部署異動を控えて「残り1年足らず、悔いのないよう全力で仕事をしよう」という気持ちに切り替わりました。
そう決めて書き上げたのが
『「世界の神々」がよくわかる本』
の企画書でした。
ゲーム好きな僕は、ゲームに登場する「ギリシア神話」「北欧神話」「ケルト神話」「インド神話」の神々のエピソードをダイジェストで読みたいと思っていました。
しかし、そんなエンタメ要素の強い企画が果たして通るのか、通ったとしても売れるのか?
企画書を書き上げたものの、企画会議にあげるべきか、あげないべきか、ギリギリまで悩みました。
「ええい、ままよ」
悩んだ末に企画会議にあげましたものの案の上、会議は紛糾しました。
多くの編集者は、
「まじめでしっかりした内容のものを求めているPHPの読者は、エンタメ企画は買わない」
と反対でした。
しかし、ごく少数の人から、
「新たな読者の開拓につながるかもしれない」
という意見もでました。
そこで最終的に編集長の出した結論は、
「編集部としてはチャレンジしてみよう」
でした。
「ただ営業部はおそらくNOだろう……」
そして、企画書を回付した営業部の答えは、
「PHP文庫は、エンタメ志向の読者が買うブランドではなない」
という理由で✖、でした。
「やっぱりダメだったか……」
落ち込んでいた僕に、編集長がやってきて
「ダメ元で社長決裁にあげてみよう」
と言ってくれました。
当時、営業部からダメ出しされた企画であっても、ごくまれに社長がOKを出して正式決裁されることがあったからです。
そこで一縷の望みをかけて、社長決裁に提出してみることにしました。
待つこと半月。
社長から決裁書類が戻ってきました。
企画書の束の中から『「世界の神々」がよくわかる本』の企画書を見つけると、すぐさま社長決裁の欄を見ました。
するとなんと!
社長のGOサインがあったのです!!!
「やった~! 決裁が通ったーー!!!」
思わず叫び出しそうな気持ちを抑えながら、すぐさま制作に取りかかりました。
そうして出来上がったのが
『「世界の神々」がよくわかる本』
です。
初版20,000部スタート、半月で増刷が決定。
こんなに売れたのは、出版部に来て初めての出来事でした。
営業からは、
「POPをつけたいからコピーを考えてほしい」
と言われ、うれしくてうれしくて必死でコピーを考えました。
そのPOPが書店に設置されると、さらに売れ行きが伸びていきました。
そうすると人間って、本当に身勝手な生き物ですね。
「編集部に残って、もっと売れる本を作ってみたい」と思うようになったのです。
そこで部長に恐る恐る
「編集部に残りたいのですけど、可能でしょうか?」
と申し出ると
「いいよ。調整してみるよ」
と言ってくれました。
以来、現在まで編集の仕事が20年以上続いています。
会社、そして当時の上司には心から感謝しています。
『「世界の神々」がよくわかる本』は、その後も売れ続けて、35万部を突破。
続編4冊も大ヒットし、シリーズ累計でミリオンセラーを記録しました。
長々と書いてきましたが、僕が言いたいのは自慢話でもなく、身勝手な社員のわがままなリクエストを会社が受け入れてくれたという話でもありません。
「大ヒットする商品は、みんながもろ手を挙げて賛成するような企画ではありません」
という話です。
むしろ
「それちょっとどうなのよ」
と言われるくらいの「異端」からベストセラーは生まれるということ。
プロ野球の野村監督の言葉に
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
があります。
本の世界も同じです。
何が大化けするかなんて誰にもわかりません。
類似商品がなく予測不可能なものだからこそ、大売れするわけですから。
ベストセラーになる企画とは、
「マーケットのことを頭に入れつつも、それにとらわれない斬新なアイデアが元になっている」、つまり「異端」です。
一方で
「莫大な利益を得る可能性があるところには、恐ろしいほどの損失の可能性がある」(ポール・グレアム)
の言葉通り、大化けするものの裏には必ず大きな損失の可能性があります。
そこを乗り越えるのが
「自分が本当に心の底から読んでみたいと思っているものを書く」
です。
異端や失敗を怖れない大胆なチャレンジこそがベストセラーを生み出す。
今日も、自分自身にそれを言い聞かせています。
OCHI企画では
「異端を怖れないあなた」を応援しています。
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