【Tear’s Letter】「障がいに乗じた性犯罪」を創設する上での課題｜【しあわせなみだ】Tear's Letter バックナンバー

【Tear’s Letter】「障がいに乗じた性犯罪」を創設する上での課題

2020年02月09日

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★　Tear’s Letter
★　「障がいに乗じた性犯罪」を創設する上での課題
★　2020年2月9日　No.439
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こんにちは！NPO法人しあわせなみだです。

福岡県で起きた性犯罪事件で、福岡高裁は、1審の無罪判決を
取り消し、懲役4年の実刑を言い渡しました。
1審では「被告は被害者が酒に酔って抵抗できない状態を認識
できなかった」として、無罪が言い渡されていました。しかし
2審では一転、「深酔いした状態につけ込み、抵抗できない
状態を認識していた」と判断されました。
１審の無罪判決は、現在全国各地で毎月11日に開催されている、
性暴力根絶を目指す「フラワーデモ」が開催されるきっかけの
１つになっていました。
同じ状況であるにもかかわらず、裁判官よってこれだけ判断が
分かれる状況は、被害者、そして加害者にとっても、非常に
不利益です。「酒に酔っている」状況は「抗拒不能」であり、
適切な処罰と更生が実施されるよう、法制度の整備を望みます。

↓詳細は2/5付NHK NEWS WEB「女性に性的暴行１審の
無罪取り消し懲役４年実刑判決福岡高裁」をご覧ください
http://bit.ly/2w08OQ5

それでは今週の「Tear’s Letter」をお届けします！

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┃【Tear’s Letter No.439 Topics】
┃★１．「障がいに乗じた性犯罪」を創設する上での課題　
┃★２．編集後記
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★１．「障がいに乗じた性犯罪」を創設する上での課題
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昨年9/24しあわせなみだも参加した、法務省「性犯罪に関する
施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」議事録が公開
されました。
↓詳細はこちらです
http://bit.ly/387pZgO

そこで今回のメールニュースでは、このグループでの報告を含め、
議員や省庁とのやり取りを通じて見えてきた、「障がいに乗じた
性犯罪」を創設する上での課題を、整理します。

☆１）刑法に「障がい」の定義がない

日本で障がい児者施策が本格化したのは、第二次世界大戦後、
傷痍軍人対策として、昭和24年に制定された「身体障害者福祉法」
です。一方、性犯罪規定を定める刑法の制定は、それより40年以上
前の、明治40年です。このため刑法の概念の中に「障がい児者」が
ないのは、ある意味で当然のことでもありました。

現行刑法の中で、「障がい」に該当すると考えられる文言としては、
178条と248条があります。
＊第百七十八条（準強制わいせつ及び準強制性交等）
心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは
抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の
例による。
２　人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、
若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
＊第二百四十八条（準詐欺）
未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付
させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた
者は、十年以下の懲役に処する。

「心神喪失（しんしんそうしつ）」「抗拒不能（こうきょふのう）」
「知慮浅薄（ちりょせんぱく）」「心神耗弱（しんしんこうじゃく）」
について、どのような障がい状況に該当するかは、前例に基づく
運用に任されています。

刑法に「障がいに乗じた性犯罪」を創設するためには、刑法の中で、
もしくは法務省として「障がい」を新たに定義する必要があります。
これが大きな課題となっています。

☆２）障がいにより基準や法制度が異なる

国内で、主に障がいに関する法制度を取り扱っているのは、
厚生労働省です。障がいは、いくつかの法制度の中で、
定められています。

一番広い定義であるとされるのは、「障害者基本法」です。本法
では「身体障害、知的障害、精神障害（発達障害を含む。）
その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁
により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態に
あるもの」とされています。

一方障がいを種類別に定める法律もあります。身体障がいと精神
障がいは、それぞれ「身体障害者福祉法」「精神保健及び精神障害者
福祉に関する法律」の中で、障がいが定義され、全国共通の基準に
基づく「障害者手帳」が交付されています。
ところが知的障がいについては、「知的障害者福祉法」の中では、
知的障がいの定義はなく、「障害者手帳」は都道府県・政令指定
都市それぞれが基準を定め、交付しています。
また発達障がいについては、「発達障害者支援法」が制定されて
いますが、元々広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性
障害等、多様な状態が「発達障がい」という総称でくくられて
おり、発達障がい独自の障害者手帳もありません。

刑法に「障がいに乗じた性犯罪」を創設するためには、既存の
法制度においても広大な「障がい」の範囲を、どう定めることが
できるかが、大きな課題となっています。

☆３）被害者に障がいがあることを知っていたか

「障がいに乗じた性犯罪」創設を考えた場合、加害者が
「被害者に障がいがあることを知っていたか」が、
重要になります。

2017年の刑法性犯罪改正で新たに創設された「監護者性交等罪」の
場合、加害者である監護者（親等、子どもと生活を共にし、日常の
世話や教育を行う者）も、被害者である子どもも、双方が「監護者
と子ども」という関係性を理解しています。

一方被害者が障がい児者である場合、加害者は
＊被害者が障がい者であることを知っている（知りうる立場にある）
＊被害者が障がい児者であることを知らない
いずれの可能性もあります。
また、「知っている（知りうる立場にある）」加害者の範囲を、
職業上の地位（施設職員、医師、教師等）に限定するのか、
それとも「見た目で認識した」「会話の中で判断した」等、
職業を問わない人々まで拡大するのか、ということも、
検討する必要があります。

刑法に「障がいに乗じた性犯罪」を創設するためには、被害者と
加害者の地位関係性をどこまで広げるかが、大きな課題と
なっています。

障がいのあることが、性暴力を経験するリスクが高い可能性を
踏まえ、合理的配慮の観点から、刑法をはじめとする法制度に、
適切な規定が望まれます。

★２．編集後記
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理事長中野のコメントが、1/20付「毎日新聞」に掲載されました。

昨年の教師によるわいせつは、過去最高となりました。
一方で事件を公開しない教育委員会も、少なくありません。
事件を非公開にすることは、性暴力の黙認につながることを、
指摘しています。ぜひご覧ください。

↓中野のコメントはこちらです（有料会員登録で全文ご覧いただけます）
『教員わいせつ、再犯防げず　18年度最多282人　
処分歴の共有に「穴」』
https://mainichi.jp/articles/20200120/k00/00m/040/001000c

＜関連記事＞（こちらは皆さん全文ご覧いただけます）
『教員わいせつ公表に差　31教委、被害者に確認　
処分者氏名公表16教委　毎日新聞調査』
https://mainichi.jp/articles/20200119/k00/00m/040/198000c

☆最後までお読みいただきありがとうございました。

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