「あいだの力学」の月刊メールマガジンです。 毎月11日に発行されます。

　　　　　「あいだの力学」の気になる間の話
　　　　　　----------------------------　　2020/04/11

皆さま、こんにちは！

桜が咲く季節になりましたが、近ごろの新型コロナウイルスによる
自粛の影響で、せっかくの満開の桜も楽しめないでいる方が多いこと
と存じます。

わたし（和氣ひろゆき）の場合、参加を楽しみにしていた研修3つと、
自分たちで開催を予定していたワークショップの1つが、あいついで
延期や中止になってしまい、残念を通り越して、ちょ～っとショック
を受けています。

…とはいえ、その分の時間が余ったわけですから、有意義に使いたい
もの。何ができそうか、少し考えてみようと思っています。

（まずは、ゆっくり休もうかなあ…）

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【今月の気になる間の話】

●「わたし」と「プリズン・サークル」とのあいだがら

わたし（和氣よりこ）はCTI(The Coaches Training Institute)という団体で
コーチングを学びました。その創設メンバーのひとりに、ローラ・ウィット
ワース※1という方がいます。

彼女と交流があった先輩のコーチたちから―

・ローラが受刑者の更生を支援するの目的で、コーチングのトレーニング
　プログラムを刑務所に収監されている受刑者たちに対して行い、一定の
　成果をあげた

―という話を聞いていたこともあり、前々から日本の刑務所で行っている
受刑者向けのプログラムについて興味をもっていました。

そんなおり、映画好きの知人から「プリズン・サークル※2」のことを教えて
もらい、先々月の２月に観に行きました。

映画を端的に説明すると、窃盗や傷害致死などで服役する4人の若者たちが、
刑務所の中で実施されている、TC(Therapeutic Community=回復共同体)プログラム
をとおして、新たな価値観や生き方を身につけ、変わっていく様子を記録したもの
です。

映画の中で語られる、それそれの子ども時代の家庭環境の貧しさや、あまりの
ひどさに、わたしは胸が痛くなりました。また、TCプログラムの可能性に、一筋
の光を感じたりして…気づくと、あっという間にエンディングを迎えていました。


上映後に、映画を製作した坂上香監督のトークがあり、映画に込めた監督の思い
に触れ、また自分なりに考えた結果―

・人が負のサイクルからぬけだすには、「仲間との対話」を通じて、自分自身の
　居場所を客観的にみる視野を持つことが大事
・そのうえで「このままではダメだ」と思ったら、仲間と一進一退しながら
　少しずつ改善していく

―というやり方しかないんじゃないかな？と感じました。
大事なことなので「忘れないために書こう！」…と、ある意味「自分のため」に
まとめたものですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。


先ほども触れましたが、受刑者4人は、幼少期に貧困や虐待など、それぞれにつらい
過去を体験しています。映画の後に読んだ坂上監督の本※2の一文―

・「犯罪を犯す人は、人生のある時点では皆被害者だった」という言葉を
　ジャーニーを通して幾度となく耳にした

―を読んだとき、

　「ああ、あの4人の若者たちも、ある時点までは被害者だったんだな」

―と、共感したのです。

貧困や虐待を経験したからといって、必ず犯罪をするわけではないですし、
どんな事情があっても、犯罪を犯してはいけません。

ただ、「自分の周りは『盗まれたら盗む』が普通だったから、窃盗の何が
悪いのかよく分からない」という受刑者の一人が、

TCプログラムのグループワークをとおして、幼い頃の「痛み」や「悲しみ」
「喪失感」を、受刑者同士、お互いに少しずつ言葉にすることで、それらの
感情の存在を受け入れ、「被害者としての自分」に自分なりにピリオドを
打った結果、同じような苦痛を(被害者に)与えた、「罪を犯した自分」と
向き合える／向き合うようになっていく姿をみると、

もしこの受刑者にも「本当の仲間」がいて、互いに語る「うれしいこと」や、
「悲しいこと」を、自分事のように感じる／共感する体験ができていたのなら、
そもそも犯罪を犯さずに済んだのかも…と思うのです。


一般に、日本の刑務所は受刑者に規則を守らせることを重視しています。
例えば食事中や作業中は私語禁止※4ですし、何をするにも刑務官の許可が
必要です。
刑務所内のルールは、社会のルールとは「ちょっと違う」ようです。そうした
環境の中では、仲間に自分の気持ちを吐露することは、難しいことかも
しれません。

一方で、TCプログラムが再犯の予防などに効果があるのは、参加する受刑者の
それぞれが、それぞれに、互いの気持ちを分かち合える、「本当の仲間」に
なっていくことを、意図したものであるからのようにも感じます。
詳細は分からないので、あくまでも推測ですが。


さて…映画の話から離れますが、わたしと夫(和氣ひろゆき)は、路上生活者の
支援団体の協力のもと、生活困窮者に対して、無料でコーチングを提供する
ボランティアを続けています。

ふと、受刑者が変わっていく姿が、路上生活者の人たちがコーチングで
変わっていく姿と、重なる部分があるな…と思いました。
それは、否定も肯定もせずに関わりつづけると、彼らも自分のタイミングで、
ホームレスから脱し、就労とか次のステージに行くことが多いということです。

犯罪者と路上生活者を同列に語るつもりはありませんが、どちらも
「本当の仲間を必要としている」という意味では、一緒なのかもしれません。


（よーりー）

※1 Laura Whitworth:現在のビジネスコーチングの礎を築いた人物の一人。
　　2006年没。功績については、Brock博士の論文やHPにまとめられています。
　　→ http://vikkibrock.com
　　→ http://www.vikkibrock.com/wp-content/uploads/2008/11/ijco2009715465brockfinau.pdf

※2 取材許可まで6年、撮影2年　初めて日本の刑務所にカメラを入れた
　　ドキュメンタリー映画詳細はプリズン・サークル公式ホームページを参照
　　のこと。
　　→ https://prison-circle.com/

※3 「癒しと和解への旅～犯罪被害者と死刑囚の家族たち～」岩波書店


※4 私語禁止にする主な理由は、受刑者同士が「出所後の犯罪計画」を話し合う
　　ことがないようにする為です。
　　TCプログラムで受刑者同士が話し合いをしても「出所後の犯罪計画」になら
　　ないのは、プロフェッショナルな方々がプログラムを運営しているからだと
　　わたしは感じました。



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