このメルマガの説明はありません。

わかるWebメールマガジン

42歳の幼児

2019年09月09日

2001年7月8日。

アメリカ
コネティカット州の
リハビリテーション施設。

一人の男が
スタッフの助けを借りながら
プールに浮かんでいた。

首に浮き輪、
腰には救命ベルトをつけている。

周囲には
家族や理学療法士
ドキュメンタリー映画のクルー
その他関係者たち

大勢の人々が固唾を呑んで
男の動向を見守っている。


彼の足首に
重りが付けられ、
胸の辺りまで水中に沈んだ。

このまま
力を入れて膝を伸ばせば
水中で立ち上がることになる。


理学療法士が聞いた。
「立ってみますか?」

男は答えた。
「もちろん」


準備が整うと
彼は心の中で自分自身に
「ゴー」サインを出した。

脳が「立つのだ」という
指令を出すと
筋肉が緊張して膝が伸びた。

身長192cmの男は
水中で直立した。

みんなが、まるで
月ロケットの打ち上げ成功の
ときのように歓声を上げた。

これは何事なのだろう?


男の挑戦は
まだ終わっていない。
肝心なのはここからだ。

理学療法士が言った。

「全体重を右足に移してください。
そして
左足を前に蹴ってください」

男は左足を前に蹴ってみる。
自分の目で
左足が前に出たのが見えた。

できた!

「今度は左足に体重をかけて
右足を蹴ってください」

これを続けるうちに
彼の「体」は
今何をすべきなのかを覚えていった。

「歩くこと」

それは彼にとって
全く不可能なはずのことだった。


彼は事故で「四肢麻痺」となり
首から下が全て麻痺した。

何年もの間
手足の動作はできず
感覚すらなかった。

しかし
不屈の努力と訓練の末
水中で、だが
初めて自力で歩くことができたのだ!



こんにちは。
「わかるWeb」の国府田(こうだ)です。



男の名前は
クリストファー・リーブ
「スーパーマン」を演じた俳優です。

今回は、以前配信した
「飛べなくなったスーパーマン」の
続編です。



●人体という精密機械

人間の体はいわば
精密機械のようなものです。

我々が想像するよりも
はるかに複雑でデリケートです。

体を調整する部品が失われたり
故障してしまうと

それまでは当たり前のように
動いていた体が
動かなくなることがあります。

息をするのも
食べるのも
排泄するのも
起き上がるのも

全て
脳と体が綿密に連携して
動作しているのです。

脳と体の連携が失われたとき
我々は
いったいどうなってしまうのか。


「プールの奇跡」から
遡ること6年前

当時42歳の
クリストファー・リーブは
落馬事故によって頚椎を損傷し

首から下が全く動かず
感覚もなくなりました。

自力で呼吸ができません。

おそらく生涯
生命維持のケアに頼って
生きていくしかない。

二度と、自力で
手足を動かすことはできない。

それが
一般の医師の見解でした。



●42歳の幼児

事故後のリーブの日常は
こんな様子です。

リハビリセンターでは
一日一度
病室から「娯楽室」に
移動するという日課がありました。

お見舞いの人に会ったり
家族に手紙を読んでもらうためです。

そしてこの移動が
とてつもない大冒険だったのです。


「娯楽室」に行くには
車椅子に乗る必要があります。

そのためにはまず
「上半身を起こす」のですが
いったいどんなプロセスなのか
わかるでしょうか。


看護士と理学療法士が
彼の頭と首を硬い輪に固定します。

胴体のほとんどを
補強用帯布でぐるぐる巻きにします。

これは、起き上がったときに
血圧が下がるのを防ぐた めです。

次に
プラスティックシートを
体の下に敷き
体を横向きに転がしてもらい
シートを定位置に滑らせてもらう。


問題はここからです。

ベッドの上で徐々に
座った姿勢になるように
体を起こされていく。

血圧は90秒ごとに
モニターされます。

このとき、途中で
気を失うことがあるのです。

そうすると、再開まで
10~15分は待つことになります。


調子が悪いときには
これを2~3度試し

調子が良いときは
血圧が落ち着いたまま
20分ほどで起き上がれることもあります。

起き上がれたら
ようやくゆっくりと
車椅子に体を収めてもらう。

そしてやっと
「娯楽室」に向かうのです。

毎回、こうした
複雑極まりないプロセスが
必要なのです。


健常者は、この
「起き上がり、座る」という動作を
自分の体の調整と筋力で
さして意識することなく
行なっていますよね。


こうして
日常の最低限の営みをするにも
誰かに頼らなければならない。

リーブは自身のことを
こう思っていました。

麻痺によって自分は
「42歳の幼児」に
変身してしまった、と。



●希望と絶望の日々

事故直後の彼は
希望と絶望が
入り混じった状態でした。

大丈夫、やがて良くなるはずだ。

これまで自分は
どんな怪我も病気も乗り越えてきた。

だから、この麻痺を
乗り越えられないわけがない。

「一生動けなくなる」なんて
あるわけがないし、
そんなことはとても受け入れられない。


しかし
状況を知るにつれて
それが紛れもない現実であること

そして
事態が深刻であることを
理解していったのです。


リーブは
やり場のない絶望と怒りに
翻弄されました。

一体これまで自分が
どんな悪いことをしたというのか?

なぜ自分だけが
こんな「罰」を受けなければならないのか。

そして
自殺願望にとりつかれました。

「もう、死なせてもらったほうがいい」

リーブは
妻のディナにそう言いました。

そのときディナは
大きなショックを受けながらも
こう言いました。

「私はあなたの意思を尊重する。
でも、覚えておいてほしい。
私は何があっても
あなたのそばにいる。
あなたはあなたのままだもの」

さらに、こう言ったのです。

「少なくとも
2年間待ちましょう」

「もし2年後に
どうしても考えが
変わらないのであれば
あなたの望みどおりになる方法を
検討しましょう」

賢明なディナは
2年経ったら
リーブがどういう答えを出すのか
わかっていたのです。

そして今は
沸騰したリーブの気持ちを
少しでも冷やそうと思ったのでしょう。



●そこにいるだけで意味がある

リーブは
家族の人生をも変えてしまうことに
憤りを感じていました。

特に、子供たちのことです。

二度と動くことのできない自分が
幼い3人の子供たちを
どう導いていけるというのか。

もはや自分は
満足な「父親」とはいえないだろう。

いやそれどころか
子ともたちが
「生涯麻痺」という事実に
衝撃を受けたり
トラウマになったりしないだろうか。

深く憂慮しました。


しかし、現実は
彼の想像とは少し違いました。


子供たちは、しょっちゅう
リハビリセンターの父・リーブに
会いに来るのです。

リーブは
子供たちにこう言いました。

「私は大丈夫だから
こんな気分が滅入るような
ところから出て
外で楽しんで来なさい」

何度も、子供たちに
そう言い聞かせました。

しかし子供たちは
たとえ面会時間が
2 ~3時間しかなくても
彼と一緒にいたいと言いました。

帰ろうとしないのです。


やがて
子供と接しているうちに
彼は気づきました。

自分はかつて
こんなにも子供たちと
話をしたことがあっただろうか。


今まで彼は
旅行やスポーツ、冒険
何かの日常的な行事など

子供たちと行動を共にし
一緒に体験することで

心を通わせ、教えたり、
導いたり、楽しんだりしてきました。

それまで
彼のアイデンティティは
行動や活動で示すものでした。


しかし
今は動くことができません。
行動では何も示せません。

にもかかわらず
「そこにいるだけで」
子供たちにとって
意味のある存在になっていたのです。


子供たちといるとき
リーブはかつてないほど
子供たちの言葉に耳を傾け

子供たちは
リーブの発する言葉
ひとつひとつに
影響を受けていました。

「すること」ばかりではなく
「そこにいること」が大事なのだ。
彼は初めて
そう感じたのです。

彼にとって
まったく思いもよらないことでした。


リーブはこうして
妻や子供たち
医師や友人たちによって

自殺願望から遠ざかり
生きる方向に
目を向かされていったのです。



●左手の奇跡

奇跡は
左手の人差し指に起こりました。

落馬事故から5年後の2000年
リーブとディナが
話しているとき

ディナは
リーブの左手の人差し指が
動いているのに気づきました。

それまでも
彼の体の一部が動くことは
珍しくなかったようですが

脳と体が連携していないので
意思とは関係ない動きです。

だから
その左手の指の動きを
ディナがたずねると

やはり意識的なものではなく
無意識に動いていただけ
ということがわかりました。


そのとき
ディナはふと言いました。

「じゃあ意識して
動かせるかどうかやってみて」

今のリーブには
脳の命令で指を動かすのは
できないことです。

だからこれは2人にとって
できてもできなくてもいい
ただのゲームでした。

リーブは
左手の人差し指を見つめて
精神を集中しました。

真剣に
精神と体の関係を作ろうと
一心不乱に指を凝視しました。

「動け!」

ついに彼はそう叫びました。

すると
先端から第一関節までが
上下に動き
リズム良く肘掛を叩いたのです!


2人とも
信じられない思いで
見守っています。

そして再び精神を集中し
「止まれ!」と叫びました。

すると、指は止まりました。


ディナは椅子から飛び上がり
彼の近くに行って
再び観察しました。

2度目を行い、成功しました。

3度目はディナが合図を出し
これも成功しました。

4度目は
リーブが目を閉じた状態で
ディナが合図を出し
これも成功したのです。

しっかりとリーブを抱きしめた
彼女の目には
涙が浮かんでいました。

近くで待機していた
看護士長も
その知らせを聞いた担当医も
事の顛末に正気を失っていました。

ありえないことが起こったのです。

そしてその後
詳しい検査が行なわれました


果たして
指に「感触」が戻っていたのか

あるいは感覚はないまま
動作だけができたのか
それは不明です。

しかし
動くはずのない体を
意思によって動かすことができたのです。

担当医たちは
この奇跡の現象に
我を忘れるほどに興奮したようです。



●観衆(医師たち)の前で

その後彼は
医師たち(観衆)に
さらなるパフォーマンスを
見せつけました。

人差し指だけではなく
左手の「全ての指」を
動かして見せ

肘掛から垂れている右手首を
水平になるまで持ち上げ(!)

さらに、手首を曲げて
手を完全に上に持ち上げたのです。

ただしこれらは
決して「軽々と」ではなく

とてつもない集中力と
エネルギーをつぎ込んで
成し遂げたものでした。

「プールの奇跡」は
それから1年後のことでした。


彼が52歳で亡くなるまで
ついに自力で立ち上がること
そして歩くことはできせんでしたが

指や手の動作
そしてプールでの水中歩行は
医師たちを驚愕させた出来事でした。



●我々は「麻痺ゾーン」に生きている

リーブは言います。

障害があろうが
健常者であろうが
我々の多くは
「麻痺ゾーン」に生きている。

ここでいう「麻痺ゾーン」とは

憂鬱というわけではないが
何事にも興味を呼び起こされず
儀式のように同じことを
繰り返し受けながら

一日また一日と
過ごしていく状態のこと。

問題なのは
もしそのゾーンに
長い間はまってしまうと
人生に意味を見出せない状態に
取り込まれるということ。

そして
その「麻痺ゾーン」が
危険なほどに
心地よくなるということだ。

リーブの言葉です。



●リーブが飛んで行った場所

体は動かないけれど
リーブは精神力で突き抜けました。

できるところまで
歩けるところまで
とにかく歩いたのです。

腐ったり
投げやりになったことなど
数え切れないほど
あったことでしょう。

それでもまた
「情熱ゾーン」に
飛んで行ったのです。

それは
彼が四肢麻痺の状態で
生きていく
ただ一つの方法だったのかも
しれません。


彼のエネルギーを
きっと我々も
見習うことができるでしょう。

自分でフタをしたままの
まだ見ぬ大きな可能性が
我々にもきっとあるはずです。



ではまた!



(クリストファー・リーブの実話およびストーリーは、本人の著書「Nothing Is Impossible(邦題:あなたは生きているだけで意味がある)」より抜粋・引用 メルマガ用に調整しています)



メルマガの過去記事はこちらです。
(2つのサイトにまたがっています)
https://bit.ly/2Inhr9U
https://wakaru-web.com/column/


このメルマガは、無料レポートを申請していただい方、
これまで名刺交換をさせていただいた方などへ送信しています。


メルマガの配信停止はこちらからお願いします。
解除専用ページURL

****************************************

「わかるWeb」LINE@

初心者向けのWordPressやWebの情報、「わかるWeb」のサービス情報、日々気づいたことをお送りします。
是非こちらから「友だち追加」をお願いします!
https://line.me/R/ti/p/%40pcn1617z

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2019年9月9日 第038号発行

「わかるWeb」運営事務局
発行責任者:国府田 誠
https://wakaru-web.com/


「わかるWeb」についてのお問い合わせはこちら。
https://wakaru-web.com/inquiry/

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

記事一覧

今度何の映画が観たい?それは誰の映画?

昭和の昔。 まだ家庭用のビデオが 普及していないころ 1970年代なかばから70年代後半 僕が小学生から 中学生のころです。 そのころは 映画がブームでした。 外国映画の話題作が 続々と公開さ

2025年01月25日

宇宙まで行っても宇宙旅行気分にはなれない。なぜなら・・・

宇宙飛行士は 忙しい。 宇宙に行く前も 宇宙にいる間も 地球に戻ってきてからも とにかく忙しい。 現在の宇宙飛行士は わかりませんが アポロ計画のころは 忙しかったのです。 「アポ

2024年09月29日

破産寸前のジョージ・ルーカス。なぜ彼は成功したのか?

24平方キロメートルという 東京都品川区ほどの 広大な土地を「所有」し そこに自分のオフィスや スタジオを構え 図書館、宿泊施設、シアター、 オーケストラステージを作り プール、テニスコート、カ

2024年09月22日

追い詰められたウルトラマンは、誰に助けられたのか?

こんにちは! 「わかるWeb」の国府田(こうだ)です。 いまだに続いている 日本の長寿番組と言えば ニュース、バラエティー ドラマ、アニメ等・・・ そのジャンルによって 様々ありますが 例えば

2024年08月03日

今まで何してたんだっけ?いったいどれほど眠っていたんだ?

あれ? 今まで何してたんだっけ? どこにいたんだ? いったいどれほど眠っていたんだろう? そんな風に目覚めたことは ないでしょうか。 さらに、数秒経っても 思い出せないときは ちょっと不

2024年07月26日

人家のない山奥で一人っきり。どうする?

こんにちは! 「わかるWeb」の国府田(こうだ)です。 突然ですが あなたは、日本のどこか 人家から離れた山奥に一人で暮らせますか? 「ポツンと一軒家」のような家ではなく 全くの「山の中」です

2024年07月11日

このメルマガ何だっけ?一応確認してから削除しよう

あれ?このメルマガ何だっけ? と思ったでしょうか。 いやいや、こんなメルマガとってないよ・・・ そう思ったかもしれません。 何を隠そうこのメルマガは・・・ 1年5か月ぶりに配信します!

2024年07月08日

人は最新の世界ではなく15秒間のキャッシュを見ている。脳が動かす驚くべき視覚システム。

朝起きて まずあなたは 何をしますか? トイレに行く 水を飲む 顔を洗う。 いや、その前に スマートフォンなどを 見るかもしれません。 スマホで時間を確認して LINEやメールもチェックする。

2023年02月16日

短パンの紐のミステリー。思った方向に物事は進む

最近、こんなことがありました。 ある朝、いつもの通り 3:30ごろに目を覚ましました。 4:00からジョギングするためです。 そんなに早い時間から? と思うでしょう。 そうなんです。 とて

2022年09月02日

初心者向け「実践WordPressマスター講座」開始のお知らせ

こんにちは! わかるWebの国府田です。 今回は、「わかるWeb」の新たな講座についてのご案内です。 面白ストーリー編をお楽しみにされている方は、次号をお待ちください! さて、寄り道せずに進

2022年08月18日

「洞窟オジさん」と呼ばれた男。43年間の壮絶サバイバル生活

1週間 ほとんど寝ずに歩いた。 山に向かう線路に沿って どこまでも歩いた。 空腹になると山柿を取って食べ 疲れ果てたら 線路のわきで何かにもたれて眠った。 学生服に通学カバンを下げ 大きなスコ

2022年07月26日

最初はひとつの小さなピースから(WordPressスタート講座のお知らせ)

こんにちは! 「わかるWeb」の国府田(こうだ)です。 物事を始めるには きっかけとエネルギーが必要です。 「これを始めよう、あれを始めよう」 趣味でも、仕事でも アイデアはよく湧いてきますが

2022年06月10日

「懐かしさ」の正体とは何か。ノスタルジアが作る未来 【講座予告あり】

ある穏やかな春の日。 ひとりの少年が 小川に沿った小道を歩いている。 年のころ8 、9歳だろうか。 しゃがみ込んで、小川を見つめると 水の窪みに、蛙の卵が浮いている。 周囲に聞こえるのは 鳥の

2022年05月05日

「達人」の視点はあらゆる分野に通じる。アマゾンビジネスを基礎から体得。

「わかるWeb」の国府田(こうだ)です。 今回は、今気になるビジネスの紹介(第1回)と、「わかるWeb」の小さな募集のお知らせです。 【今、気になるビジネス(第1回)】 ●「達人」が教えてく

2022年02月08日

「哲ちゃん」という名の強盗。あなたを作る記憶のはじまり。

年のころ 60歳前後であろうか。 男は、その中華料理屋に一人でやって来た。 中華丼や唐揚げを食べて ビールと焼酎を飲んだ。 飲み終わると、彼は立ち上がり 突然ナイフを出した。 「おい」 店

2022年01月22日

66 件中 1〜15 件目を表示
<<   <  1 2 3 4 5  >   >>