宇宙からの帰還
アメリカ・テキサス州
ヒューストン。
男たちは、起床すると
まず医務室に行って
身体検査を受けた。
ステーキと
スクランブルエッグの
朝食をとる。
その後
再び身体検査をする。
脈、血圧、呼吸などを測るため
胸や腹に
センサーを付けられる。
採尿器をつけ
専用の下着をつけ
そして、宇宙服を着る。
午前6:30
サターンV型ロケットの
発射台に到着する。
エレベーターで
360フィート(約110m)の
高さまで昇り
ロケット最上部近くの
司令船に乗り込む。
午前7:00
司令船のハッチが閉まる。
午前9:00
ロケットが点火され
火を吹き始める。
すさまじい轟音とともに
ロケットは猛烈な速度で
上昇を始める。
4Gの加速度で
乗組員たちは
座席に押し付けられる。
600トンのケロシン燃料と
1,400トンの液体酸素を
わずか2分半で燃焼して
スピードはやがて
時速8,500kmになる。
2段目、3段目の燃料が
燃やされた後には
時速39,000km(秒速10km)
のスピードに達している。
ロケットは慣性の法則に従い
秒速10kmの超高速で
月へ飛んで行く。
かつて
1961~1972年にのころに実施された
アメリカの宇宙飛行計画。
マーキュリー計画、
ジェミニ計画、アポロ計画。
初期の宇宙飛行士たちは
ほとんどが軍関係者やパイロット
科学者などから選ばれていた。
ある飛行士は、自分たちのことを
“nuts and bolts type”
「ボルトとナット型」
と呼ぶほど
メカニカルなことにしか関心がない
技術者集団だったという。
彼らが
文化や政治経済などの話題を
話すことはなく
そのような話題は
口に出すことすらはばかれる空気
だったという。
地球に帰って来ても
宇宙飛行の精神的な面については
語る機会もなく
仲間同士で話すこともなく
そうした記録も
ほとんど残っていなかった。
しかし、実は
彼らのうちの何人かは
宇宙飛行を通じて
人生を根底から変えてしまうほどの
衝撃を受けていた。
例えば
地球の軌道上から
地球の姿を見たとき。
月へ向かう途中で
遠ざかっていく小さな地球を見たとき。
自分が月の上に降り立ったとき。
言葉では言い表せないほどの
大きな内的インパクトを
経験をしていたのだった。
こんにちは。
「わかるWeb」の国府田(こうだ)です。
宇宙から帰還した飛行士たちの
心理的体験。
これは
立花隆(たちばな・たかし) 氏の著書
「宇宙からの帰還」に書かれています。
立花隆氏は
1940年生まれのジャーナリスト。
「田中角栄研究」他
社会に影響を与えた
多くの著書があります。
「宇宙からの帰還」は
1983年に刊行された
ノンフィクション作品です。
スペースシャトルが登場する
以前の時代。
マーキュリー計画から
アポロ計画のころの
宇宙飛行士たちを訪ね
膨大な取材を行って書かれた作品です。
※当記事では、特定の宗教を推奨
あるいは否定する目的がないことを
あらかじめお伝えしておきます。
●多忙を極める訓練の日々
宇宙飛行士に課された学習や訓練は
とてつもなく膨大です。
勉強する内容は・・・
天文学、航空工学、航空力学、
ロケット推進、コンピューター、
通信工学、数学、地理、
高層大気圏物理学、宇宙空間物理学、
環境制御、医学、気象学、
誘導制御、宇宙航法、
地質学、岩石学、鉱物学
・・・などなど。
これ以上の範囲があるうえに
それぞれの課目を
何10時間も学ばなければ
なりませんでした。
中でも変わった訓練として
「サバイバル訓練」がありました。
地球に帰還したとき
場合によっては
宇宙船が予定地点に着水できず
ジャングルの中や
沙漠地帯に落ちるかもしれない。
そのとき
ジャングルの中で
どうやって食料を見つけるか
危険に対応するか
救出隊が到着するまでの
生き延び方を学びました。
実際に
本物のジャングルや砂漠に行って
サバイバル実習まで行ったといいます。
このような学習や訓練に加えて
宇宙計画のPR集会などに出席するため
宇宙飛行士たちは
全米を駆け巡らなければならず
多忙を極めました。
家庭を顧みる余裕もありません。
そのため
なんと彼らには
T38ジェット練習機が
「自家用機」として
与えられていたそうです。
自家用ジェット機で
全米を移動していたのです!
何という
スケールの大きさでしょうか。
●本番そっくりのシミュレーション
月への飛行に関しては
合計3,000時間にもおよぶ
シミュレーション訓練がありました。
打ち上げ、宇宙飛行、月着陸、
そして地球への帰還まで。
シミュレーションは
本番と全く変わらないほどの
驚くべき正確さで再現されていました。
例えば
本物の月面そっくりの
緻密なレリーフ模型が作られ
操縦装置と連動して
テレビカメラが模型を映していく
という仕掛けになっていました。
シミュレーターの窓には
本番と同じような光景が見え
乗っているときの震動や轟音までも
再現されていたようです。
だから宇宙飛行士たちは
本当に月に行った時に
こう思ったそうです。
「これはシミュレーションとそっくりだ」
宇宙飛行の一番の目的は
人間が宇宙や月へ行って
無事に地球に帰ってくることです。
そのために
何重もの安全策や
トラブルへの対策が
考え抜かれていたのです。
●突如訪れる空白の時間
本番の宇宙飛行の間も
飛行士たちは
目が回るほどの忙しさです。
ヒューストンからの指示を受けながら
準備や点検など
「分刻み」で組まれたスケジュールを
こなしていくのです。
常に技術的なタスクに追われていて
何か考えたり感じたりしている余裕は
全くありません。
しかし
そんな過密な時間に
突如として「空白」ができることが
ありました。
例えば、次のような瞬間です。
船外活動中にふと待ち時間ができて
一人ポツンと
宇宙空間に浮いているとき。
あるいは
月への飛行中に
膨大な点検作業を終えて
ようやく一息ついて窓の外を見たとき。
そうした時に彼らは「初めて」
広大な宇宙や
そこに浮かぶ地球の姿を
目の当たりにすることができたのです。
●奇跡の5分
「地球は青かった」
人類史上初めて宇宙空間に出た
旧ソ連のユーリ・ガガーリンの言葉は
あまりにも有名です。
宇宙に浮かぶ地球の美しさが
宇宙飛行士に
大きなショックを与えました。
しかし
宇宙飛行士が受けたインパクトは
これだけではありませんでした。
アポロ9号の宇宙飛行士だった
ラッセル・シュワイカートは
こう語ります。
「地球軌道周回で
月着陸船から船外に出て
手すりを伝って
司令船に移動できるかどうか
という実験をしていた。
いよいよ実験開始というときになって
なぜか記録用のカメラが故障した。
仕方なく仲間が司令船に戻って
カメラの調整を始めた。
それからカメラが直るまでの間
私はたった一人で何もすることがなく
宇宙空間に取り残された。
それは時間にして
わずか5分くらいのことでしかなかった。
しかし、その5分間が
私にとっては
人生において最も充実した5分となった」
彼はいったい
その5分間で
何を感じたのでしょうか。
●宇宙と地球と自分
宇宙で浮いていた
シュワイカートが見下ろすと
眼下に地球がありました。
宇宙服のヘルメットの視界を
遮るものは何もなく
漆黒の宇宙と
あまりにも美しい地球。
地球軌道を周回中で
時速17,000マイル(27,000km)の
超高速で飛んでいるはずなのに
そのスピードを
実感させるものは何もない。
完全な静寂が支配している。
宇宙空間の真っ只中に
ただ自分が
ポツンと浮いているだけです。
シュワイカートは
その5分間に思いを巡らせました。
こんなチャンスは二度とないことを
知っていました。
「おまえ(自分)はなぜここにいるのか」
「おまえが見ているものは何なのか」
「おまえと世界はどう関係しているのか」
そして
漆黒の宇宙と地球と
それを見下ろしている自分を感じて
こう思ったそうです。
「おこがましい言い方に
なるかもしれないが
人間という「種」を代表して
自分がそこにいると思った。
自分は、人間という種の
センサーになっていた。
感覚器官にすぎなかった。
「種」というものを
これほど強烈に意識したのは
初めてだった。
それは
最高にハイな瞬間だった。
しかし、通常よくある
エゴが高揚するハイではなくて
エゴが消失するハイだった。
この体験は
私の個人的な価値ではなく
私が人類に対して
持ち帰って伝えるべき価値だと感じた」
そして、こう続けます。
「人間と地球との関係を
もっと深く考えなければいけない。
人間同士のことだけではなく
人間という種と他の種との関係
人間という種と地球との関係を
もっと考えなければならない。
(当時)眼下の地球では
第三次中東戦争が行われているが
人間同士が殺し合うより前に
もっとしなければならないことがある」
●神と呼ぶ「何か」
他の何人かの宇宙飛行士も
「宇宙空間でとてつもない
インパクトを感じた」と
取材した立花氏に証言しています。
多くの飛行士が共通して語ったのは
「神」の存在です。
アメリカ人が
クリスチャンであることは
何ら特殊なことではありません。
しかし
宇宙飛行士たちがみな
敬虔なクリスチャンだったかというと
必ずしもそうではありませんでした。
「神」の存在に疑問を持っていた者も
少なからずいました。
(社会的な影響を考えて
表には出さなかったようですが)
しかし、彼らが
宇宙に浮かぶ地球を見たとき
荒涼とした月面を肉眼で見たとき
月の上を移動しているとき
つまり
宇宙空間を体感した時
「神がここにいると確信した」
と言うのです。
それは
白い衣を着て髭をたくわえ
杖をついた神がいるのではなく
姿はないが
確実に存在感のある神。
自分と神の距離が
まるで同空間にいるかのように
まるで隣にいるかのように
身近になって
振り向くとそこに
「神」がいるに違いない
という感覚にとらわれたそうです。
実際に、何度も振り返って
後を確認した者もいました。
いったいこれは
どういうことなのでしょうか。
飛行士によっては
「神」というよりも
この世界を創った
「至高の存在」を感じたと言います。
この調和のとれた世界を
創造した存在があるに違いない。
なければおかしい。
今自分が見ているもの
宇宙や地球の調和は
その存在が作った世界だ
と感じたというのです。
特徴的なのは
自分自身がこのように
「神」や「至高の存在」の確信を得る
ことになるとは
夢にも思ってもみなかった
と語る者が多かったことです。
宇宙体験とは
それだけ人類の経験を超えた
超常的な体験だったのでしょう。
著者の立花氏は
深く言及していませんが
信仰の深さにかかわらず
飛行士たちがクリスチャンである
という下地は
きっと、こうした経験に
影響を与えたに違いないでしょう。
もしアジアで生まれ育った人間が
同じ体験をしたとしたら
アメリカ人と同じように
感じたでしょうか。
また別の感じ方、受け取り方を
したかもしれませんね。
そうした体験談があれば
是非読んでみたいものです。
●宇宙飛行士たちの後の人生
宇宙体験で
内的なインパクトを受けた
飛行士の多くには
その後、NASAをやめて
様々な転身・変化を遂げた
ケースがあります。
例えば、
宇宙で神の存在を確信して
伝導者になった者
ESP能力(いわゆる超能力)の
研究科になった者
上院議員になった者
絵描きになって
月世界ばかりを描いている者
ビジネスに転身して
大成功をおさめた者
中には
精神に異常をきたした者も
いたようです。
「宇宙体験をすると
前と同じ人間ではありえない」
シュワイカートのこの言葉の通り
形はどうであれ、いずれも
宇宙飛行の前よりも広い視野を得て
世界を見るようになり
それまでの自分になかった
新しいビジョンを手に入れた者たちが
多かったようです。
●未来の人類の先駆け
シュワイカートは語ります。
「宇宙から地球を見たとき
私の受けた精神的インパクトは
まるで
人間の体内にいたバクテリアが
体外に出て初めて
人間の姿全体を知ったときに受ける
であろうようなインパクトだったのだ」
この言葉の通り
宇宙での精神的な体験は
人間の視野が広がって
次の進化を遂げる先駆けになるもの
なのかもしれません。
人類はこれから
成功と失敗を繰り返して
少しずつ、宇宙に出ていく。
やがて未来の時代
宇宙や他の惑星に
住むようになったとしたら
現在の価値観や常識を
はるかに超えた意識を持つ「種」に
なるのかも知れませんね。
いや、あるいは
今後どこに行こうとも
人類はさして変わらないでしょうか?
これまでの人類の歴史を見てみると
その可能性も
大いにあるように思えます。
願わくば
今よりも広く深い知見を持って
宇宙に出てまでも
今と同じような争いや奪い合いが
続かないことを祈るばかりです。
ではまた!
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2020年5月6日 第047号発行
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