書店員向けメールマガジン【箕輪書店だより】2019年1月号
1.はじめに
2.今月のコラム
3.本の売り方を考える
4.編集者インタビュー
5.書店員インタビュー
6.新刊インタビュー
7.あとがき
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1.はじめに
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全国の書店員のみなさん、はじめまして。編集者の箕輪です。これから毎月、書店員さんだけが登録できるメールマガジンを配信していきます。
そもそもこのメルマガを作ろうと思ったのは、いつだっけな...まったく思い出せない。いつか忘れたんですが、佐渡島さんと話したことがきっかけ。「箕輪編集室で、書店と協力して『死ぬこと以外かすり傷』を売れるようになったのすごいね。この繋がりをそのままにしとくのはもったいないよね。」みたいな話になったの。
というのも、箕輪編集室の地方メンバーが、各地方の書店員さんと仲良くなって、その書店に僕の編集した本や僕自身の本を置く専用の棚が作られるようになったんです。だからこそ、『死ぬカス』を10万部売ることができた。そして、何よりも棚ができたこと以上に、書店員さんとの繋がりができたということが大事。そのみなさんとの繋がりを保っていければいいなと思って、書店員さん限定でメルマガを始めます。
なので、バリバリの骨太コンテンツというよりも、ふわっと肩の力を抜いて読めるようなものをゆるーく配信していきます。よろしくお願いします。
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2.今月のコラム
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*編集者・箕輪厚介が最近の出来事を気ままに語るコーナー。今月は、昨年のクリスマスイブに発売された『メモの魔力』の制作秘話を語ります。
『メモの魔力』を作ったきっかけは、前田さんがどこで何をしてても、狂ったようにメモをとりつづけていて、それがすごく面白いと思ったから。それに、メモをして抽象化して転用するという思考がものすごいユニークだった。そもそも『人生の勝算』の取材の時点で一番面白いと感じてたんだけど、『人生の勝算』に入れると本の軸がよく分からなくなってしまうと思った。だから、『メモの魔力』というタイトルでもう一冊の本にした。
ちなみに前田裕二という人は、性格が非常に良くてポジティブで頑張り屋さんなので、一緒に仕事をしていてとても気持ちがいい。僕もいろんなアイデアを逆にいただきながら本を作った。例えば、「みんなに自分の人生の軸を投稿してもらって本に載せる」という企画は前田さんのアイデア。そんな前田さん的な、みんなを巻き込むアイデアに、僕がこの数年で培ってきた拡散力や箕輪編集室メンバーが作る動画など、すべてを注ぎ込んだことで、発売前からとてもいい滑り出しができたんじゃないかな。
でも『メモの魔力』は100万部を目指しているから、いつも僕の本を読んでくれる人たちだけでなく、他の層にも届ける必要がある。だから、あえて帯に前田裕二の顔写真を入れなかった。スーツを着てて、NewsPicksを読まないようなお堅い系のビジネスパーソンは、著者の顔写真が入ってると、いわゆるガツガツ系やスタートアップ系をイメージしてしまって、引いてしまうと思う。でも、メモを題材にした本だったら読むだろうと思って、あえて見た目も一般的にして届けようとした。
前田さん自身、「スッキリ」で密着映像が放送されて相当話題になったので、これからもいい感じで売れていくといいな。あ、「スッキリ」の密着の話でいうと、本当に酷い話がある。僕は「スッキリ」のコメンテーターでレギュラーじゃないですか。僕も密着された「気になるジャーナル」っていう15分の枠があるんだけど、「前田さんの密着はそこで流してください」って僕がねじ込んだの。
そして、当然「スッキリ」は、担当編集者の僕からコメントをもらって流そうとした。そしたらね、スタッフから「箕輪さんのコメントNGでました(笑)。最高です」って、なんか共演ができなくなった(笑)。ありえなくない? まあ前からなんだけど、(自主規制)がガチギレしてて、僕と前田さんは地上波では共演NGになってた。だから逆に、僕の密着を流すときも、前田さんのコメントはカットになってる。(自主規制)から「カットしてくれ」ってお達しがいって(笑)。
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3.本の売り方を考える
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*「本が売れない」「出版不況」と言われてるなか、ベストセラーを連発する編集者・箕輪厚介がこれからの本の売り方について、日々考えていることを語ります。
少し前にこんなツイートをした。
「これからの編集者は原稿を本にする以外に動画とかSNSとか記事とか色んなものを全部絡めてやらないといけないから、いい編集をするとか、いい原稿を作るだけではなくて、同時多発的に動画を作ったり、記事を作ったり、バーって動かせるチームを持っていて、そのチームを動かす力があるかどうかっていうことが問われる」
https://twitter.com/minowanowa/status/1070911686054371328
これまでは、いい原稿を本にして、新聞広告を打って本屋さんに並べていれば、ある程度売れていたかもしれない。しかし、世の中も人間もみんな変化しているから、新聞を読まなくなり、本屋さんにも行かなくなり始めている。今、編集者は「いい原稿を本にする」だけでは本を売ることができない。
「作家にいいものを書いてもらってそれを伝えること」までが仕事なのに、編集者がいつまでも作家面して割烹料理を食べながら、「今の人は本を読まないなあ」って言ってるようではダメだよ。そんなことは作家が言えばいい。編集者というのは自分が「本物の才能」ではないからね。まれに両方できる人もいるけど、本物の才能をいかに今の世の中と結合できるかを考えることが編集者の役割。しかし、今の編集者の多くは、時代遅れの産物になってしまっていて、このままだと出版文化自体がオワコンになってつまらなくなる。
だからこれからは、SNSや動画、オンラインサロンのようなコミュニティを使って渾然一体となってやれるかがキーになると思ってる。例えば、前田裕二の『メモの魔力』では、プロモーションとなる動画が何本も作られたり、Twitterでもすごい拡散されたりしてた。もし僕が担当編集でなかったら、これほど面白い現象にはならなかったと思う。
そういうふうに全メディアを横断的に動かすプロデューサーのような人を、これからは「編集者」と呼ぶのかなと。だから、僕は影響力をさらに強めて、本の世界観を伝えられる人間でありたい。そして、同じようなことをできる人を育てていって、増やそうと思う。
出版業界と同じく書店業界も斜陽と言われ、売上も書店数も減少している。でも今、店頭で動画を流すなど、書店さんもいろいろと新しいことに取り組んでいるよね。「常に魅力的であるためには、変わり続ける必要がある」ということを意識してやっていくのがいいのではないかと思う。
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4.編集者インタビュー
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*今週の当コーナーは休載とさせていただきます。次回の掲載をお楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
箕輪-アポ取れなくて、かつ僕に時間があれば、憑依させる大川●法パターンもいいよね。「◯◯(箕輪)です。アポ取れなかったので憑依パターンでいきます」って(笑)。
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5.書店員インタビュー 「棚が死んでいくのが見えた」 本が売れないのは書店員のせいだ
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「今、最も”仕掛けている”書店員は誰か?」
その問いに「青山ブックセンター(以下 ABC)の山下優さん」と口にする業界関係者は多い。
インフルエンサーと協業しユニークな企画を立ち上げ続ける行動力や、SNSを積極的に活用した発信力は未来の書店員のあるべき姿を想起させる。
2017年12月から11ヶ月連続で前年同月の売上を上回る実績を挙げ、現場を実質的に取り仕切っていた山下さんは2018年11月に店長に抜擢された。なお、山下さんが店長になって以降もこの記録は継続中である。
ABCの出版社化を目指すなど、現在も書店業界に多くの変革を起こし続けている。
社員にはなりたくないと、店長に就任するまでアルバイトだったという衝撃的な経歴の持ち主。
得意なジャンルは、思想・文芸・アートだが、10年間の書店員人生でほぼ全ジャンルを網羅している。
<棚づくりの極意は日々の「積み上げ」で見えてくる>
-書店員さんと言えば図書館の司書のようなイメージを持つのですが、山下さんにお会いした印象はビジネスパーソンのようです。
よく「書店は文化」だと言われることが多いじゃないですか。でも僕はあくまでビジネスだと思っています。文化だと主張するなら「じゃあ金を出してパトロンをやってくれ」って思いますよね(笑)。本当に文化なら税金でやるべきですよ。
-書店で働き始めたころから、積極的に仕掛けていくタイプだったんですか?
典型的なやる気のないアルバイトでしたよ(笑)。最初は裏方としての検品作業がメインだったのですが、その仕事がだんだん面白く思えてきたんです。検品は午前・午後と二便あって、午前は書店員が自分の意思で注文した書籍が入ってきます。働いてからしばらくすると検品をしながら「あの人はこういうことを仕掛けたいのか」といったことが自然と分かるようになりました。そこから棚づくりに興味を持ち始めました。
-棚づくりについて、コツのようなものはあるのでしょうか?
本を並べるにあたり「自分が読みたいかどうか」はひとつの強い要素ですが、駅近でもないABCにわざわざ足を運んでくれているお客さまがどのような本を買いたいのか、については常に考えています。決まった条件のようなものはありません。さまざまな情報を勘案し、最後は直感で決める時もあります。その時の判断を支えているのは、今までの積み上げだと思うんです。いろいろな仕掛けをしてその反響を受け止めて、時には玉砕して、そうした経験が今の僕を支えています。ですから常にトライ&エラーを繰り返すことが重要なんです。棚づくりは書店員の個性が反映されますし、それはそのままその書店の「色」になります。だからこそ絶対に妥協しちゃいけない部分なんです。棚づくりを任せてもらうようになって、いろいろなジャンルを担当しましたが、「文芸」を担当した時のことがすごく印象に残っています。僕の前に「文芸」を担当していた人が全然やる気がなくて、棚が死んでいっていたんですよね。
-「棚が死んでいく」というのはどういうことですか?
感覚の問題なので言葉にするのは意外と難しいです。要するに「魂」が入っていないんですよ。配本されたものをただ並べているだけの状態といいますか。他の書店の棚を見た時も、「あ、ここ死んでるな」と思うことがあります。うまく言えないんですけれども、書店がその棚に力を入れているかどうかは、傍目から見ても結構分かりますよ。
<書店員はもっと外の世界を見るべきだ>
-棚づくりを見て「この書店すごい!」と思ったことはありますか?
最近、都内の書店に行くことがめっきり少なくなってしまいました。もともとは他の書店に足を運ぶタイプだったんです。かつては「エセ書店員」と名乗るほど読書量が少なく、そのことにコンプレックスを感じていましたからね。だから他の書店がどういう本を置いているのかすごく気にしていました。でも、他の書店で大成功した本が自分の店舗で売れる保証なんてありません。僕自身の経験として、ある書店ですごく推していた本をABCに置いてみたところ、まったく売れなかったことがあります。それぞれの地域の特徴に合わせた形で棚をカスタマイズをしなければならないということを学びました。他の書店の棚づくりを真似ても意味がない。だから最近はそれらを参考にすることは少なくなりました。
−書店員はもっと外の世界に目を向けろと?
読書量の少なさはかつて僕のコンプレックスだったのですが、今は逆にそれが強みになっているように感じているんですよ。変なこだわりがあまりなかったため、物事を柔軟に考えることができたような気がします。この業界に入っていろいろな書店員を見てきましたが、自分が好きな書籍やジャンルに対するこだわりが強すぎて、それがその人の可能性を閉ざしてしまっているようなケースをよく目にします。視野を拡げるためにも書店以外の世界に目を向けるべきなんです。とにかく好奇心を持つことが重要だと思うんですよね。当たり前のことなんですが、意外とできない。「これは好きだけど、これは知りません」となってしまう人が多いように感じます。好奇心を活かせる職業として書店員ほど恵まれている仕事はありません。「分かりません」で終わるのはもったいないです。
-書店とはまったく関係ないように思えるイベントに足を運ぶことが多いそうですが、それも視野を広げる一環ですか?
異業種から学ぶことは多いですよね。だからなるべく別分野の店舗や面白い人が集まる場所には足を運ぶようにしています。そこに集まる人たちが関心を持つものは何だろう? といつも考えていますよ。
また、著者やインフルエンサーに会いに行って、直接交渉するのは全然ありだと思います。先日、コミュニティフェス(CAMPFIREが主催したオンラインサロンが一堂に介したイベント)にお邪魔させてもらったのですが、サロンオーナーである宇野常寛さんや櫻田潤さん、箕輪厚介さんと話をする機会がありました。ただ会って話すだけでなく、「こういうことができます」「こういうことを考えています」と提案すると、普通に喜んでもらえます。実際に、箕輪さんが登壇するイベントや宇野さんの番組出演等、その場で多くのことが決まりました。櫻田さんがデザインしたTシャツを青山ブックセンターで販売することが決まったのもその時です。
-櫻田さんのTシャツと本を一緒に販売することはもともと考えていたのですか?
本を起点に何かできないかな、ということは考えていました。書店だからといって本だけで何とかしようとする必要はないじゃないですか。店頭で「あのTシャツは何?」と気になった人が関連する本を購買することは結構あると思っています。例えば野菜なんか、生産者の顔写真入りで売ってたりするじゃないですか。本でも似たようなことができないかなって考えていたんです。本を買うのではなく、背景を示すことで、その商品を取り巻く全体ストーリーを買ってもらうというイメージです。
<書店員はもっと仕掛けられる>
-記事などで「書店はリスクがないからもっと仕掛けた方がいい」とよく仰っていますが、具体的にはどのようなことですか?
例えば、前田裕二さんの『メモの魔力』は、全国で売り切れる書店が相次いでいましたが、なんでもっと発注しておかなかったんだろうなと思います。NewsPicks Bookも知名度があって、予約開始時点でAmazon総合1位を取っていたじゃないですか。置いたら売れることは確実な状況です。売れることが分かっていたのに、品切れを起こすなんてあり得ない。あらかじめ準備しておけば他の書店でも売れただろうにもったいないですよね。書店にはリスクがないんですよ。もちろん返品率だとか細かい部分ではいろいろあると思うのですが、委託販売なので買い切りじゃないし、思い切ったことはできたはずなんです。もっと何かできるのに、ここまででいいと壁を作ってる人が多いような気がします。書店員はもっと仕掛けられますよ。
−全国の書店員にはもっとチャレンジしてほしいと?
スタートアップ企業とか見てても、いろいろな人が出てくるから面白いじゃないですか。例えば前田裕二さんや、佐藤航陽さんが一人だけで活躍していても、全然面白くない。まったく違う個性を持った人がそれぞれの強みを持ち寄って、世の中の雰囲気を変えていっているのが面白いんだと思います。書店も同じで、それぞれの個性を発揮して、みんなで一緒に盛り上がっていくのがいいと思ってます。
-これからの書店にはどのようなことが求められていますか?
書店は過渡期にあると感じています。今はインターネットで手軽に本が買える時代です。ベストセラーは書店よりもAmazonで買った方が便利だと、書店員の僕でさえも思います。しかし、ここで諦めるのではなく、書店員が持つ強み、例えばジャンルを横断した知識などを総動員して、お客さまや世間の人が一歩でも前に進む手助けをする提案をできれば、お客さんにも喜んでもらえますし、店の売上も増えるでしょう。そのためにも「自分たちの書店は何をしたいのか」という部分を明確にしなければいけません。出版不況が当たり前のようになってしまっていて、今の書店はどこか「落ち着いてしまっている」と思いますよ。ABCが取り組みをツイートして、それがたまに他の書店へ波及することがありますが、逆に僕たちも他の書店からそういう影響を受けたいです。現状、僕たちが刺激を受けるような情報をあまり見かけないんですよね。こんなことを言うとめっちゃ喧嘩売ってるみたいになりますけど(笑)。
*青山ブックセンター本店は、現在アルバイト(社員登用あり)を募集しています。興味がある方は、ぜひHPからご連絡お願い致します。
http://www.aoyamabc.jp/store/honten/
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6.新刊インタビュー 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』1週間で10万部のカラクリは“翻訳”にかけた想い
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世界で100万部超のベストセラー『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』。ビル・ゲイツも大絶賛するその名著が日本語訳され、1月11日に発売されました。瞬く間に10万部を突破し、多くの著名人が絶賛しています。今回は、その共訳者であり、シリコンバレーでエンジニアをしている上杉周作さんにインタビューを行いました。
<なぜ翻訳者が販促活動を行うのか>
-まず、発売1週間で10万部突破おめでとうございます。
ありがとうございます。でも、まだまだこれからです。『FACTFULNESS』の教えの一つに「大きそうに見える数字は他の数字と比較しよう」とあります。例えば日本の世帯数は5340万世帯。10万部売れても、500世帯に1冊しかない計算になります。
-上杉さんは、発売後もSNS発信や書店回りを頑張っていらっしゃいます。翻訳者が前面に出てこられるのってとても珍しいですよね。積極的に活動しているのはなぜですか?
翻訳者が発信を通して、社会にもっと認知されてほしいなと思います。そしてゆくゆくは翻訳者の数がもっと増えてほしい。本以外にも動画や記事など、良質な英語の情報は爆発的に増えていますが、英日翻訳者の数がそうではないのは問題だと思います。
-しかし、翻訳ツールは最近とても発達しています。それでも翻訳者の数が増えるべき理由は何でしょう?
僕はエンジニアなので、翻訳ツールがどのように作られているかある程度想像はつきます。ただ、簡単な会話ならまだしも、記事や書籍レベルになると、人間の翻訳を代替できるほど正確ではない。実際に『FACTFULNESS』を翻訳しているとき、Google翻訳を使ってみたのですが、使い物にならなかったですね。
Google翻訳の精度は確かに上がってきてはいますが、多くの場合、自然で美しい日本語と言うには程遠い。名著の価値をそのまま伝えられるかというとそうではない。僕は、名著の価値を落とすくらいの翻訳だったら、ないほうがましだと考えています。だから、名著の価値を落とさずに日本に伝えられる翻訳者は、これからも必要とされると思います。
ベストセラーになった本の多くは日本語訳されているんですが、英語で発信されたTwitterやブログはほとんど訳されておらず、有益な情報であっても日本人には届きづらい。だから、僕はそういった情報を積極的に日本語訳してブログで公開しています。反響も大きいことが多いですね。仮想通貨など、訳すのに専門知識が必要な分野ほど訳されていない記事が多く、日本と英語圏の国のあいだで情報格差を感じます。そういう意味でも翻訳者がもっと増えてほしいと思います。
-それにしても、上杉さんのSNSにおける力の入れようはすごいです。読者の方々の感想にも、それぞれ丁寧にコメントされていますよね。Amazonのレビューにまでも返信していたことにはとても驚きました。
Twitterだけで計算したところ、電子書籍版が先行発売されてからの20日間で送ったリプライは約1300件でした。1時間あたり4件の計算になります。
(https://twitter.com/chibicode/status/1086888015757103105
-すごい! なぜそこまでできるんですか?
エンジニアの僕が言うのも変かもしれませんが、販促に大事なのは、人々の心理を理解することだと思います。例えば多くの人は、「この人が作ったものなら信頼できる」と感じたものを購入します。それは書籍でも、僕がいるIT業界でも同じです。
例えばウェブサイトのデザインを簡単にできるツールを販売したいとする。そのために最も効果的なことは何か。答えは、ブログでウェブデザインについての記事を書くことなんです。いいデザインのサイトを作るには、こういうことに気をつけないといけない、と。そして最後に、「気をつけることが多すぎて大変ですよね。もし自力でやれそうになかったら、我々が提供しているツールを使うのはどうですか?」と提案するんです。そうすると、「いい記事を書いているし、このツールは信頼できそうだな」と思ってもらえます。
SNSでは、発信よりも、その発信に対するコメントをついつい見がちですよね。だから、Twitterで積極的にリプライを送り続ければ、それを見た人に「翻訳者の人は信頼できそうだな」と思ってもらえるのではないでしょうか。それが販促に繋がればいいなと思っています。
<読みやすさを追求した『FACTFULNESS』>
-訳書って読みにくいイメージを持っていたのですが、『FACTFULNESS』は訳書とは思えないぐらい、とてもスラスラと読むことができました。翻訳で何かこだわられたんでしょうか?
翻訳でも、それ以外の文章でも、「読みにくい」と感じてしまう文章は、推敲を繰り返せばもっと良くなる気がします。僕らも最初に訳したもの(初訳)はかなり読みにくかったと思いますが、それを何度も磨いて読みやすくしていきました。
また、本を訳す前に、原著の製作陣から翻訳者向けのガイドラインが送られてきて、それにとても大事なことが書かれていました。彼ら曰く、「この本はすべての人に読んでほしい。だから、知らない用語が出てきたせいで読書を挫折する人が出てこないよう、言葉遣いには配慮しないといけない」と。例えば、統計についての本なんですが、「相関」や「因果関係」といった難しい統計用語は意識的に省いています。「出生率」という言葉もほとんど使ってないはずです。それよりも直感的に理解できる、「女性ひとりあたりの子供の数」という言葉をかわりに使っています。
-難解だと広まらないですもんね。
はい。ほかにも、できるだけ柔らかい日本語を使うように心がけました。例えば、「〜である」は本文の中で一回も使ってないんですよ。格調高く偉そうな感じになるので省いているんです。あと、主語をできるだけ省いたり、一文を短くしたりしました。読みやすい日本語にすることで、ふだん翻訳書を敬遠している人にも読んでもらいたいなと思っています。政治家やNPOの現場の最前線にいる人、パスポートを持っていない人など、肩書きや環境など関係なく読んでほしいという思いがあります。
一方で、万人受けを狙った本は、逆に売ることが難しいのではないかと当初思っていました。「全然売れないんだろうな。一万部いけばいいかな」って。だから、初刷り二万部と聞いたときは、「大丈夫ですか? すべて売り切れますか?」って聞いてしまいました(笑)。そのため、いきなり十万部売れてびっくりしています。
<『FACTFULNESS』の一番の批判者でありたい>
-これからも書籍の翻訳は続けていくのですか?
書籍翻訳はもうやらないつもりですが、『FACTFULNESS』に関して、訳し残したことがありまして。というのも、原著の制作元は、本に収まりきらなかった脚注をウェブで公開しているのですが、それをまだ訳せていないんです。本書の内容、特にデータについてご批判をいただくことは何度もありました。しかし、その批判に対する答えの多くは、すでにオンライン版の脚注に書かれています。それをちゃんと見てもらえるように、日本語に訳したいですね。
それを訳し終えたら『FACTFULNESS』の批判記事を書こうかなと。
-え、批判ですか?
はい。僕は訳者ながら、本書の一番の批判者でもありたいのです。一番の批判者でもありたいから、この本で語られていなかったことや、僕が翻訳しながら疑問に思ったことを書こうと思います。今は時間がないのですが、多く人が本を読み終わった3月ごろに公開するつもりです。それも、今まで自分が書いたなかで一番長い記事にしたいな、と。目標は10万字です。本を読んでないとわからない内容になるかもしれないので、そんなに多くの人には読まれないと思いますけどね。
-とても楽しみです。では、最後にこのメルマガを読んでくださっている書店員の皆さまへ一言お願いします。
ぜひポップなどで「冒頭に載っている『世界の事実にまつわるクイズ』をやってみてください」とすすめてほしいですね。全問正解だったら『FACTFULNESS』は読まなくていいけど(笑)、ほとんどの人がたくさん間違えると思います。Web版のクイズも作ったので、QRコードにして貼っておくのもいいかもしれません。チンパンジーよりも正解できるかどうか、ぜひ書店員の皆さまも試してみてください。
Web版のクイズはこちら→https://factquiz.chibicode.com/
Web版のクイズのQRコードはこちら→https://www.google.com/url?q=https://factquiz.chibicode.com/static/images/qrcode.png&sa=D&ust=1548511802182000&usg=AFQjCNHcaNXd1FfWu0kIB8DH87NcSrEJoA
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7.あとがき
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ご登録いただきありがとうございます。
箕輪編集室ライターチームリーダーの橘田佐樹です。
今月は書店員・山下優さん、『FACTFULNESS』共訳者・上杉周作さんのお二方へインタビューさせていただきました。
業界の慣行などに「不毛ですよね」と苦笑いしながらも、「こんなことを仕掛けていきたいんです」と強く静かにつぶやく姿が印象的だった山下さん。お話を聞いていて、すべての結果はなんのカラクリでもなく、ひとつ一つの行動を変えていくことで生まれるものだと、改めて考えさせられました。
『FACTFULNESS』共訳者・上杉さんは、原稿確認をしていただいたとき、本当に丁寧で細やかな修正をいただき、言葉に対する真摯さを感じました。『FACTFULNESS』を訳す推敲の過程でも、この丁寧さがあったからあれほど読みやすい訳書になったのだろうなと。
さて箕輪編集室は、2018年1月から公式noteを開設し、ほぼ毎日記事を更新してきました。気が付けばその数は1000記事を超えています。しかし、箕輪編集室の外部の方へのインタビュー記事は数えるほどなのです。そういった意味でも、このメルマガは箕輪編集室として挑戦と言えるものでしたが、無事皆様へお届けすることができてとても安心しています。
これからも書店員のみなさんがあっと驚くような方へインタビューをしていきます。こんな方にもインタビューしてほしい! などありましたらぜひTwitterで「#箕輪書店だより」をつけてつぶやいてくださると嬉しいです。常日頃エゴサをしますので、きっと見つけます。
そして、このメルマガ「箕輪書店だより」が始まるきっかけとなった佐渡島さんと箕輪さんをお招きして、いつか登録者限定の対談イベントができたらいいなとチームメンバーと目論んでおります。それまでにもっと登録者を増やせるよう、魅力的なコンテンツを配信していきます!
来月もお楽しみにしていただけると嬉しいです。
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*取材...橘田佐樹、渡邉淳
*書き起こし...國友克弥、山口恵子、渡邊淳司、氷上太郎、Natsumi Suzuki、石川 勝紘、後藤俊光、新井大貴
*執筆...柳田一記、橘田佐樹
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