このメールマガジンは、日頃書籍販売の現場でご尽力されている全国の書店員様同士のコミュニケーションの一役となれば、という編集者・箕輪厚介の想いから実現いたしました。 具体的な内容といたしましては、箕輪厚介による本の売り方についてのコラムや新刊インタビュー、書店員さんや編集者さんへのインタビューなどを掲載する予定で、月1回・無料での配信予定です。

箕輪書店だより

書店員向けメールマガジン【箕輪書店だより】2020年2月号

2020年02月29日

【箕輪書店だより 2月号 目次】

1. 書籍インタビュー
『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』
キャリアアドバイスのプロフェッショナル佐藤雄佑さんが大切にする考え方

2.書籍インタビュー
人材業界のご意見番、黒田真行さんが語る
課題は「潜在雇用の創出」と「適材適所の最大化」

3. あとがき
箕輪書店だより 編集長 柳田一記


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1.書籍インタビュー
『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』
キャリアアドバイスのプロフェッショナル佐藤雄佑さんが大切にする考え方
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株式会社ミライフ代表取締役社長の佐藤雄佑さんは、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)に中途入社後、事業組織長や人事責任者、エグゼクティブエージェントなどを歴任し、リクルートのホールディングス化を人事責任者として指揮された方でもあります。2017年に組織について書いた『いい人材が集まる、性格のいい会社』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓され、このたび人材業界の本として『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(同上)を黒田真行さんと共著で上梓されました。佐藤さんに本書への思いやご自身について、そして書店員の皆さんへのメッセージを伺いました。(取材時:2019年12月)


<執筆のきっかけはMBA取得のための論文。「求職者提供価値」にこだわり、人材業界を健全に変化させたい>

―『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』は、過去の歴史から未来予測までを網羅されているこれまでになかった人材業界の本になると思います。そもそもなぜこういった形で人材業界の過去現在未来をまとめようと思われたのかきっかけを教えてください。

佐藤さん:この本は、2015年4月から2年間通った早稲田ビジネススクール(MBA)で書いた論文が基になっています。その頃は本にするなんてことは全く考えておらず、「人材業界は今後どうなるんだろう」という私の純粋な興味から研究をしていました。

人材業界は派遣も含めると7兆円を超えるマーケットですが、業界の教科書というか、体系的に歴史やサービスを解説したものがなかったんですよね。人材業界にどっぷり携わってきた私ですら、数多あるサービスやそもそもの歴史についてきちんと知らなかったので、勉強になると思い題材に選びました。

ビジネススクール2年目の2016年は、12年間勤めたリクルートを退職し、転職サービスを手掛ける株式会社ミライフを設立したタイミングでもありました。人材業界を過去から遡って現在未来にかけて研究・考察することは、ミライフの今後のビジネスにも生かせるという思いもありましたね。

―共著の黒田真行さんは、リクルート時代の大先輩だそうですね。

佐藤さん:黒田さんは大先輩であり、業界のご意見番とも言われる方です。論文作成のときにお世話になり、師匠としていろいろアドバイスをいただきました。その頃から「雄佑、この論文は世に出したほうがいいよ」と言ってくれていて。自分でも論文が書き上がった段階で本にできるなと確信したので、改めて黒田さんに相談して共著の運びとなりました。

―佐藤さんが本書で想定している読者さんや、一番伝えたいことを教えてください。

佐藤さん:これから人材業界に入る学生さんや中途入社を考えている方には、本書で様々なビジネスモデルを理解して、どこの会社が伸びそうとかの業界研究に役立ててほしいですね。すでに求人広告やエージェント業で働いていて日々の仕事にモヤモヤされている方には、これを読んで今ご自身がいる業界を幅広く俯瞰的に理解することから始めていただきたいです。また人材会社を経営している方や経営企画・事業企画に携わる方たちには、自社を存続させていくためにも個人起点、カスタマー起点のサービスを意識する裏付けとして利用してほしいと思います。

今は20年間変わらなかった人材業界の構造が大きく変わろうとしているタイミングです。2008年に起こったリーマンショックの下落を除けば業績もマーケットも右肩上がりで伸びていましたが、次に景気が落ち込むタイミングで一気に変化は起こるでしょう。人材業界向けのメッセージにはなりますが、この業界が変わっていくタイミングを是非楽しんでほしいし乗り越えてほしい。本書を読んでもらった上で今目の前で起きている変化を見過ごさず、自分や同僚や自社がどう動けるかを考えて、現場で実行してもらえたらいいなと。それこそ本書には書かれていない未来のシナリオが起きてもいいんです。とにかく人材業界が良くなっていってほしいという思いで書きました。

これまでの人材業界は、求職者を募集する企業側が払うお金を使って、企業ニーズ起点のサービスを行ってきました。その構造が、一番大事な求職者のキャリアに向き合うことをおろそかにしがちなサービスを増やしてしまうことに対して、個人的な危機感を覚えていました。もちろん企業の期待に応えるのは決して悪いことではありません。ただ、企業の期待に応えようとし過ぎるあまり、例えばエージェント(キャリアアドバイザー)が求職者に対して本当にベストかどうか分からないアドバイスをしているとしたら、それはちょっと違うんじゃないのと思います。人材業界の仕事は人の人生に関わる仕事です。この本には求職者に真摯に向き合うエージェントや会社が勝つ世界になってほしいという願望も込めていますね。

「求職者提供価値」を第一とすることが、優秀な求職者が集まるプラットフォームやサービスの創出に繋がり、企業に対する提供価値も向上させていくのではないでしょうか。この本を通して、みなさんと一緒に人材業界を健全に変化させていきたいと思っています。

<圧倒的な量をやり切り圧倒的な質へと転換。リーマンショックを境に180度変わった考え方>

―佐藤さんはリクルート時代に半年間の育休を取得され、独立後も家族優先で過ごされていらっしゃるそうですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

佐藤さん:育休取得当時はリクルートの人事部門マネージャーとして、ちょうど大きいプロジェクトが完了したタイミングでもありました。この半年間は、今までの人生で一番贅沢で最高の経験と言えますね。

一番のきっかけはリーマンショックです。ビジネスマンとしても人間としても、そこで一回脱皮した気がします。リーマンショック前までは会社で実績と業績を上げ続けていて、それに対する評価もいただいていました。一番であることやパフォーマンスを上げること、最短最速であることを大事にしていた当時の好きな言葉は、「圧倒的」です。

でも、リーマンショックを機に変わりました。当時は支社長をやらせてもらっていたのでメンバーも結構な人数を抱えていましたが、頑張っても頑張っても成果が上がらない月が続き、メンバーに早期退職で辞めていただくことにまでなった経験は大きかったです。
全社で起こっていたこととはいえ、こんなに頑張ってくれた人を守れないという現実を前に、「自分は何をやっているんだろう。自分はこんなことをやりたかったのかな」とかなり悩みました。

―リーマンショックを機に、佐藤さんはどのように変わられたのでしょうか。

佐藤さん:2009年10月1日を境に、マネジメントスタイルも大事にすることもガラッと変えました。それまではビジネスサイボーグと呼ばれていたこともあります(笑)。どんなミッションもやり切って圧倒的に結果を出していましたから。

マネジメントでいうと、限られた時間内で最大限のパフォーマンスを出す生産性を意識するスタイルになりました。ギラギラガツガツ働くのもいいけど、メンバーが幸せな人生を送ってほしいと心の底から思うようになりましたね。残ってくれたのは会社の業績が悪いなか一緒にやりたいと言ってくれたメンバーたちばかりでしたから、何とか幸せにしてあげたいと本当に思っていました。

―圧倒的に一番を目指すギラギラな時代があったからこそ、今の柔らかい佐藤さんがあるんですね。

佐藤さん:そうですね。2011年3月11日の東日本大震災でもやはり自分の力ではどうしようもないことがあると痛感して。そういった無力感からどんどん自分の考え方が変わっていった感じです。

ただ「圧倒的」は今も好きかもしれません。昔は圧倒的な業績だったのが、今は圧倒的な貢献とか圧倒的なクオリティに変化した感じです。先ほどもお話しした「求職者提供価値」に圧倒的にこだわりたいと思っています。

2017年に創業したミライフも、理想のエージェントをやりたいという思いから「未来志向型キャリアデザインエージェント」サービスを主軸にスタートしました。直近では「ミライフキャリアクリニック」というサービスを作りました。これは個人のキャリア支援を追求したサービスで、転職に限らず個人のキャリアと向き合って相談ができる場所ですね。
(「ミライフキャリアクリニック」に興味持って頂いた方はこちらをご覧下さい。https://note.com/miraif_sukesan/n/n8c6020bafee8

ミライフの今後も規模ではなく質を追求して、社員にハッピーになってほしい。社員がご機嫌に働いて、うちに相談に来た人もハッピーになる。小さくてもそういう会社にできたらいいなと思っています。


<本は物理的な重さ以上の中身で、感動や刺激を与えてくれる。対人だからこそできるアプローチで、本屋さんの仕事を楽しんでほしい>

―現在ミライフの代表取締役社長を主軸に、事業構想大学院大学プロジェクトディレクター、ITベンチャー企業の社外取締役などを歴任され、NPO法人ファザーリングジャパンの活動などされていますね。パラレルに活動中でいらっしゃる佐藤さんが、もし書店業界に入られたとしたら、どういったことに注力したいですか?

佐藤さん:ちょっと書店業界のことを勉強していないのですが、なかなか難しいし、立場によってもやることが違ってきそうですよね。書店のライバルにはAmazonをはじめとするネット通販が大きな存在としてあると思うので、書店とお客さんとのリアルな接点上に、通販にはない価値をどうつくるかが重要になってくるんじゃないでしょうか。

自分なら、当たり前かもしれませんが、売り場にこだわることを追求すると思います。やっぱり、好きな人が本当に好きでつくったお店ってそれだけで十分惹かれる要素になると思うんです。万人受けするものじゃなく、エッジが効いた本屋さんがいいですね。店舗ごとのこだわりがファンづくりに繋がると思います。

もしお客さんが地元メインの書店オーナーをするとしたら、リピータービジネスだと捉えてCRM(顧客関係管理)を強化しますね。たとえばお客さんの名前を覚えるとか、購買履歴をカルテみたいにして「次この本がいいですよ」と対話できるようにするとか。Amazonにもリコメンド(推薦)機能がありますが、人間っぽいほうで勝負したいですね。

もし書店で買う人は同じ本屋さんで買うことが多いと仮定するならば、お客さんと仲良くなるのがいいんじゃないかな。「この人から買いたい」「この店で買いたい」と思わせるのが肝心だと思います。もうAmazonで調べて、買うときはうちに来てくれるくらいの関係性を目指しますね(笑)。

―ちなみに佐藤さんは本とはどのように向き合っていらっしゃいますか。

佐藤さん:本は好きですね、昨日も2冊読みました。本ってちゃんと読もうと思ってもなかなか読み進められないので、1冊を30分で読むと決めています。マーカーなどで線を引きながら読んでみて、良い本だったらもう一回じっくり2時間かけて読んだり、線を引いたところだけ再度読み返してみたり。いつもカバンにはなにかしらの本が入っている状態ですね。

最近読んだ本で一番良かったのは、古野庸一さんの『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)です。「働くのは苦役の対象でお金をもらうには嫌なこともしなきゃいけない」「働くとはイコール幸福である」といった両極端な意見に振り切った本が巷には多い気がするのですが、この本では働くということはその両方で、その矛盾とどううまく向き合っていくかについてリアルに書かれています。

なかでも“働くことを通じて、『生き残る』ことと『幸福になる』ことを両立させることが大切”という言葉は響きましたね。僕自身感じてはいたのですが、この2つだと言い切れていなかったところをズバリ表現されていて感動しました。他にも共感、共振する言葉の連続でマーカーだらけになりました。

―金言の嵐だったんですね、ぜひ読みます。それでは最後になりますが、書店員さんへのメッセージをお願いします。

佐藤さん:書店で働くことをただ本を並べる仕事と捉えてしまうと、重いし硬いし大変なだけになってしまいますが、その物理的な重さ以上に中身があって、感動や刺激を与えてくれるものを扱う仕事をみなさんはしていらっしゃると思います。
先ほどの古野さんの本にも、 “目標に至るすべての過程を楽しむ心を持つことが、(中略)、「生き残り」かつ「幸福になる」コツ”とありました。だから僕の本はさておき、今あなたがいる本屋さんで働くことを、ぜひ圧倒的に楽しんでもらいたいと思います。

* * *

株式会社ミライフ HP
https://www.miraif.co.jp/
『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(クロスメディア・パブリッシング)
https://www.amazon.co.jp/dp/4295403423/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_ZYDsEbSJCG5G1
『いい人材が集まる、性格のいい会社』(クロスメディア・パブリッシング)
https://www.amazon.co.jp/dp/4295400459/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_bzEsEbX0KBVK7



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. 書籍インタビュー
人材業界のご意見番、黒田真行さんが語る
課題は「潜在雇用の創出」と「適材適所の最大化」
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ルーセントドアーズ株式会社代表取締役の黒田真行さんはリクルートで『リクナビNEXT』の編集長をされた方で、30年以上人材業界の企画畑で活躍されていらっしゃいます。『転職に向いている人 転職してはいけない人』(日本経済新聞出版社)や『40歳からの「転職格差」 まだ間に合う人、もう手遅れな人』(PHPビジネス新書)も上梓されており、今回『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(クロスメディア・パブリッシング)を佐藤雄佑さんと共著で上梓されました。人材業界の歴史に造詣が深い黒田さんに、これまでのキャリアや本書への思い、そして書店員さんへのメッセージを伺いました。(取材時:2019年12月)


<慣習的な求人像の固定概念を壊し、これまで見過されてきた求職者の怨念を晴らしたい>

―共著の佐藤さんはリクルートの先輩後輩の関係だったそうですね。黒田さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか。

黒田さん:リクルート入社後、転職・中途採用マーケットの求人広告や求人情報誌の制作周りをやってきました。2006~2013年まで転職サイト『リクナビNEXT』の編集長に就き、その後リクルートドクターズキャリア取締役などを経て2014年に起業しました。
起業したルーセントドアーズでは日本初の35歳以上専門の転職支援サービス『Career Release40』の運営や、転職を前提としない相談プラットフォーム『Can Will』を開設し、求職者支援サービスを行っています。

―リクルートでは具体的にどんなことをされていたのでしょうか?

黒田さん:リクルート出身というと営業のイメージが強いかもしれませんが、転職・中途採用マーケットの求人広告や求人情報誌の編集や企画一筋でやっていました。入社した頃はまだ紙媒体の時代でしたから、リクルートの『とらばーゆ』とか『B-ing』といった求人情報誌は書店で売られていた頃になります。リクルートでは、書店に販促活動を行うのも制作の仕事でしたね。

やがて、総合転職情報誌『B-ing』や女性専用の転職情報誌『とらばーゆ』などの関西版編集長を兼務することになりました。
当時は関西版、東海版、関東版と地域毎に版元があったのですが、会社が紙媒体からWeb媒体へ移行する2006年に東京に呼ばれ、転職サイト『リクナビNEXT』の編集長に就きました。

―『リクナビNEXT』の編集長後に起業されていますが、どういったきっかけがあったのでしょうか?

黒田さん:『リクナビNEXT』の編集長は2013年までの約7年間担当しました。役割としては情報誌と同様、編集記事のコンテンツを作るのはもちろんですが、リアル広告であれば電車の中吊りやステッカー、ネット広告であればリスティングやWebマーケやSEOなど。“転職希望者の利用者を集める”のが仕事でした。

何のために利用者を集めるのかというと、リクルートに数多いる営業が集めてきた求人広告に反響を生むためですね。反響を生むためにもとにかく転職希望者を集める。しかし、募集企業のほとんどが「35歳以下MARCH以上の優秀な人」というニーズのため、集めた読者のうちの6割もの方が読者となってくれた瞬間にサービス対象外であることが決まってしまう構造がありました。
もちろん、35歳以上で優秀な方はたくさんいらっしゃいましたし、若い人でも学歴や転職回数などでニーズを満たさない方もいらっしゃいました。

ただ、ビジネスとしての生産性を高め自分たちの利益を出すためにも、採用可能性の高い人にコストを割く構造は私がリクルートにいる間ずっと変わることはなく。求職者を集める役割をする自分にはその6割の方たちの重みというか怨念みたいなものがずっと背中に溜まっていく感覚がありました。それこそ20年分以上の重みを感じていたんですよね。「この人達が活躍できる場を作りたい」、そう思い2014年にルーセントドアーズを起業しました。

―ルーセントドアーズでは、どのような事業をされているのでしょうか?

黒田さん:求人募集をしていない会社の社長に匿名のレジュメを見せて、興味を持った社長に提案に行くというやり方で求職者支援サービスを行っています。私はこれを「ミドル層の押し売りモデル」と呼んでいます(笑)。

これまで、「企業が言う求める人材の条件っていい加減なものだな」と何度も思ってきました。たとえばハウスメーカーの営業だったら70歳でも80歳でも住宅を売れるベテランが来てくれたらそれでいいと思うんですよね。昔みたいに年功給じゃなくて成功報酬型になっている会社ならば尚更。学歴や年齢にこだわる必要がなくなってきているはずなのに、なぜか慣習にこだわってしまう現象が起きている。家がたくさん売れることが一番だし、それが事業にとってもプラスなのに、その観点で人を見ていない。

慣習的に若い大卒がいいんじゃないかとか、素直で明るい人がいいんじゃないかといった求人条件を出しているのが今の採用だと思います。恐らく100年後に振り返ったら「よく訳の分からない採用をしていた時代があったね」となるのだろうと思ってはいますが。今は、もうその状態を早く壊したいというか。そういう固定概念を壊すことも含めて事業を行っているところです。


<今、人材業界が取り組むべき課題とは何か? 既存のパイの奪い合いをやっている場合ではない>

―今、人と仕事をマッチングするサービスにおいてどのような動きが出てきているのでしょうか。

黒田さん:昔と比べて世の中が一番変わったのは、インターネットによって情報格差が狭まったことですよね。情報の非対称性が崩れてきたというか。求人広告に書かれていることが全てだった昔と違い、今は口コミサイトにも色々書かれている状況です。
だから、企業からお金をいただいて、企業に都合の良いことを書いて、企業が求める人を集めるというモデルは、人と仕事をマッチングするサービスにおいてもう破綻しかかっていると思います。

もしマッチングの総量を増やしたいのなら、企業からお金をもらって、求職者のための情報提供をする必要があるのが今の時代です。それをまあまあ体現しているのがIndeedやGoogleといった海外のクローリングサイトですね。検索結果の最適化によってそれを実現させ、これまでの流れを崩そうとしている。実際、そこがすごい集客力を持ち始めています。

―『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』で一番伝えたかったことはなんでしょうか?

黒田さん:今後、求職者に選ばれない会社は生き残れなくなって、ブラック企業が淘汰されていく流れになると思います。そして優秀な人が集まる会社が生き残り、成長する会社になる。成長する会社を作るのも選ぶのも、選択権を持つのは求職者側になるでしょうね。

特に優秀な人材に関しては、来てほしいという会社のほうが多いので、どの会社を選ぶかは売り手市場で選べますよね。優秀な人に選ばれる会社が生き残ったほうが日本全体のためだし、良い会社が成長したほうがより良い循環が回る。もうそうなりつつあるし、その兆しも見えているということを今回の本では伝えたかったです。特に、同業界の人や雇用する側の人達に伝えたいと思って書きました。

人材業界は巨大産業になってきているので、新しく業界に入ってくる方もたくさんいらっしゃいます。これまでの歴史を知らずに新しいサービスが作られた結果、既存の求職者の奪い合いに終始している様子を見るにつけ、「このままだと業界が進化しないのではないか」と危機感を感じたのもこの本を出した大きな理由の一つになりますね。

―現状は、すでにある求人募集のなかで求職者を奪い合いしている状態だけれども、もうその段階にいる場合ではないということでしょうか?

黒田:そうですね。このままでは新しい雇用は創造されず、顕在雇用の奪い合いをしている状態のままだと感じます。それでは前に進んでいることにはならないですよね。恐らく、企業の求人ニーズ起点でマッチングをしようとしているから、奪い合いに終始してしまっているのだと思います。

「こういう人がいたらもっと企業が成長できる」という視点で求人をすれば、本来もっと採用の伸びしろは増えるはずなんです。そのなかに、女性の活用や障害者の雇用、外国人活用といった力をいれるべき分野がまだまだあるはずです。

我々の業界が本来取り組むべきは、適材適所の総量をもっと増やすことにある。ところが実際は、既存のパイの奪い合いのためにAIを利用しようとしている。そっちではなく、新たな雇用の創出のためにAIを使わないでどうするんだと思ってしまいます。

「転職者は負け犬じゃない、明るい転職を世の中の普通にしよう」と、この業界の大先輩達が40年前に始めた転職市場のサービス。転職が当たり前の社会になった今の僕らの課題はなんなのか、真剣に考えなければなりません。今の時代を生きる僕たちがやらないといけない取り組みってなんだろうと考えるなら、それは適材適所の最大化だと僕は思います。それこそ、業界を超えてみんなで取り組むべき課題だと思うんですよね。


<書店もサーチ型ではなくファインド型へ。本との出会いというセレンディピティを提供してほしい>

―適材適所の最大化についてお話をいただきましたが、書店の場合はどういった課題を設定すべきでしょうか?

黒田さん:適材適所の最大化を書店や出版社がやるとしたら、本を読む人はすでに読んでいるんだから、読んでいない人にどうやって本と接してもらうかを考えるとよいのではないでしょうか。

本を求める人の潜在需要をどう掘り起こせるかでいうと、きっと転職と一緒でサーチ型からファインド型に変わっていかないといけないんでしょうね。ある目的を持った人が、著者名や書名だけでその目的のものを探すのは難しいんです。それこそ現状は書店にある端末を使ったサーチ型が主流ですよね。それだと知っている人なら目的の本にたどり着けるかもしれませんが、そうでない人にとってはハードルが高い。

ファインド型っていうのは、たとえば洋服屋さんで「春らしい服ないですか?」って聞いて店員さんがオススメの洋服を出してくれてその中から見つけられるようなものです。今後ますます、そういったことが付加価値になると思うんですよね。

だから、書店で書店員さんがとても忙しそうにしていて「本を探したければ端末叩いて探してね」となっているのは、本末転倒な気がします。作業や梱包というのももちろん大事だと思いますが、来店してくれたお客さんとの会話総量を大事にするというか。その接触量をもっと増やすようにしていくことが、これからの書店の付加価値になるのではないでしょうか。

インフォメーションセンターっていうカウンターが書店にあるのに、レジ打ちと本の棚入れに忙しそうで書店員さんに声をかけられず、仕方なく端末で探す。もう、サーチ用のコンピューター端末は外して、人間が座った方がいいんじゃないかと個人的には思うくらいです。

書店員に知識が膨大にあって会話量が増えてオススメをいくつも答えられたら、1冊買おうと思っていたお客さんが、2冊買うお客さんになって、一人当たりの単価が上がるかもしれないじゃないですか。

―たしかに。興味のある分野を伝えるだけで、自分の知らない関連書籍を色々教えてもらえたら、それも買ってみようと思う人も多い気がします。

黒田さん:そうなんです。サーチだったらamazonで十分なので、わざわざ書店に行ってサーチしているわけではないと思うんですよね。みんなファインドしに行っているんだと思います。

紙の情報誌をはじめとする雑誌もそうですよね。みな検索しているわけじゃなく、探しにいっている。たとえば昔のカラオケも紙の冊子で曲を選んでいたから「これ歌えるわ」っていう曲を見つけやすかった。まさにファインド型ですね。でも、デンモクになってサーチ型になってからは、もう毎回同じ歌しか歌えないみたいな感じ。

―なるほど!

黒田さん:サーチ型にはセレンディピティがないんですよ。ある意味とても限られた情報にしか手が届かない。書店だからこそできるセレンディピティを考えてみるのもよいのではないでしょうか。

* * *

ルーセントドアーズ株式会社 HP
http://lucentdoors.co.jp/
『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(クロスメディア・パブリッシング)
https://www.amazon.co.jp/dp/4295403423/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_ZYDsEbSJCG5G1
『転職に向いている人 転職してはいけない人』(日本経済新聞出版社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532321468/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_-VDsEbMKCRSBY
『40歳からの「転職格差」 まだ間に合う人、もう手遅れな人』 (PHPビジネス新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4569837611/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_.WDsEbDKQSYYD



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3.あとがき
箕輪書店だより 編集長 柳田一記
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「箕輪書店だより」へご登録いただきありがとうございます。編集長の柳田一記です。
今月号では、『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』の著者である黒田真行さんと佐藤雄佑さんのお二人にご登場頂きました。

お二人は長年、リクルートで人材ビジネスの最前線で戦ってこられた先輩後輩の間柄です。現場を経験している方だからこそ言える言葉、紡げる文章があり、インタビューは金言に満ちたものでした。

お二人が強調するのは業界の変容。インターネットの普及により情報の非対称性がなくなった結果、変化が起きているのは人材業界でも同様だそうです。

若手優先、新卒優先といった本質とは全く関係ない慣習に囚われた現在の企業の採用状況を見て、「恐らく100年後に振り返ったら訳の分からない採用をしていた時代があったと言われるようになるだろう」と予言する黒田さんの言葉が印象に残ります。

採用の話に限らず、その時代に生きている人間にとっては当たり前な慣習でも、未来の人間から見ればおかしなことはたくさんあるのだ思います。ですが、日頃そうした慣習を当たり前のように受け止めてしまっている私たちはそのおかしさに、なかなか気づくことができません。

そうした部分に気づくためには自分の持つ価値観や考え方を客観視することが必要です。佐藤さんはかつてビジネスサイボーグと呼ばれるほど業績に対してこだわりを持っていたそうですがリーマンショックや東日本大震災といった、世の中の価値観を根底から覆すような出来事を経験し、価値観が変わったそうです。

佐藤さんのように大変な局面に遭遇して、自分自身のしていることを見つめ直すきっかけになる方もいると思いますが、そうしたことを伝えてくれるのが書籍です。長い歴史、異なる価値観に書籍を通して触れることで自らの価値観を俯瞰的に見る機会を今後ますます増やしていきたいとお二人のお話を聞いて思いました。

『箕輪書店だより』では、これからも読んで勉強になる、ワクワクするような内容をお届けしていきます。感想や、ご意見ご要望、冊子送付などご要望がございましたらハッシュタグ「#箕輪書店だより」をつけてTwitterでつぶやいてください。箕輪編集室のメンバーがすぐに伺います。では、来月もメルマガでお目にかかれることを楽しみにしています。




<箕輪書店だより 2月号>
編集長 柳田一記
*取材...土居道子・舩津 里奈子
*書き起こし...長居佑哉・氷上太郎・Momoko Shishido・大谷正憲・Cocono Inomata・土居道子
*執筆...柳田一記・土居道子
*制作協力…柴山由香

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