書店員向けメールマガジン【箕輪書店だより】2019年11月号 特別配信 2/3
毎月月末にお届けしている箕輪書店だよりですが、今回は、特別配信ということで、田中泰延さんのインタビューを3回に分けてお届けします。
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著者インタビュー
人のことなんて何もわからない。だから自分が『読みたいことを、書けばいい。』
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コピーライター、プランナーとして勤めた電通を退職し、“青年失業家”と名乗りWEBメディアを中心に執筆活動を続けてきた田中泰延さん。今年6月に上梓した『読みたいことを、書けばいい。』は、Amazonランキング「本」総合1位を獲得し、16万部を突破しました。そんな泰延さんに新刊の取材をさせていただくことになりました。
<人の目を気にしない、真面目から脱却する。すると人生はちょっとだけ面白く変わる。>
──わかりました。次の質問です。泰延さんだからこそ書ける文章って何だと思いますか?ご自身で「こういうの僕らしいなとか、僕っぽいな」みたいなものです。
田中:誰に非難されてもふざけきるってことですね。
──(笑)。
この取材をセッティングするに当たってのメールも相当面白かったです。実際メールを見れるのは数名しかいないのに、クスッと笑ってしまうポイントが毎回ありました。こういうやりとりをいつもされてるのですか?
田中:はい。自分が楽しくなるでしょ。どんなメールでも。例えば「4時に、ここで待ち合わせ」っていう要件を伝えるだけでも、そこに「着衣ですか? 脱衣ですか?」って書くだけで、皆さんの中に、「着衣かな? 脱衣かな?」って考える時間ができるでしょ。そういうのってたぶん楽しいじゃないですか。それでいいと思うんですよ。
みんなね、真面目すぎる! 真面目あかんて!
会社のメールなんて特にそう。皆さんも経験ありませんか? 十何人CCに名前が連なっているメールで、件名が「Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:」ってずーっと続くやつ。すごい真面目なやつで、「クリエーティブの進捗状況は、大分いい感じですか?」ってメールが来たから、僕はすぐに「大分、いい感じですよ。湯布院、別府、血の池地獄。大分は最高です。」って書いたら、完全に無視された。別の人が「今、事務所に確認中です」ってメール打ってきて、何事もなかったかのように会話が続きました(笑)。
──(笑)。
泰延さんの話は?
田中:「おまえら真面目か」と。なんでスルーするのか。一言でもええわ、「だいぶん、と、おおいたは字が同じでも関係ない」という冷静な突っ込みでもいいけど、なんでそれスルーするんよ。夜中の2時に皆疲れてると思ったから、俺も書いたのに。
──ホスピタリティーですよね。
田中:そうですよ。そうなんですよ。Facebookとかでもよくあるやん? なにかの投稿にコメントがついてて、一人ちょっと面白いことを言おうとしてるのに、次からスルーしてるパターン。あれは良くない。あれがね、社会をダメにしてるんですよ。
──コミュニティーでもよくありますよ。そういうのは絶対拾わないと、悲しくなりますよね。
田中:そうなの。悲しくなる。
──それはわかりますが、会社で、しかも電通さんという大企業でも貫くって。
田中:だって別に、犯罪じゃないからね。
──はい、確かに。じゃあ、それが泰延節ですかね。
田中:今、この瞬間をちょっとでも楽しくするのに文字があるとしたら、楽しく使えばいい。明日死ぬかもしれないと思ったら、ちょっとくすぐった方が楽しいじゃないですか。
あのね、成功しようと思ってる人は、自分が死ぬって思ってないのよ。いつか全員死ぬってことを意識すると、毎日が面白くなる。なんか成功しようと真剣にそればっかりやってる人は、成功できない途中で死ぬんですよ、皆。
皆さん死ぬって思ってないでしょ? 僕は50歳だから、死を意識しますよ。
──意識はしてるけれど、泰延さんのような柔らかさって、なかなか真似できないです。
田中:ま、柔らかいというか、ラッコの話については僕は強行姿勢を貫きますよ。曲げる気はない。
──(笑)。
田中:すべての科学は仮説です。間違いないのは、熱力学の法則だけって言われてます。それ以外はすべて仮説ですからね。
──なるほどなるほど(笑)。
わかりました。じゃあ、それが泰延節ですね。
田中:愉快に過ごしたら、毎日がちょっと良くなると思うんだよね。
この本の帯に「人生が変わる」と書かれているよね。これは編集者さんが入れはったんですけどね。
でもまぁええかと思って。なんでかと言ったら、本当に人生が変わるからですよ。つまり真面目から脱却する。人の目を気にしない。
「ターゲットは誰」とか、「誰に刺さるか」とかじゃなくてね。誰に刺さるかって、よく言うけどさ、通り魔じゃないんだから!
──(笑)。
田中:誰に刺さるか考えようって……、そんな、ナイフ出さんでください。誰も刺さなくていい。まずは自分が面白かったらいい。
「死ぬ」って言うことを意識するから人生が変わるんですよ。
死なないと思っているから、今やってることのステップを踏んでいけば成功するって思ってますよね。一直線だからダメなんですよ。毎日やることステップしていくだけだから。しんどいよ、これ。でもね、死ぬと思ったら、そこから脇道へそれていくことができる。
──はい。
田中:そう。脇道にそれたらいいですよ。
──そうですね。
本の話に戻ります。この本は書く人にとって本質的なことが書かれていると思います。書く人としての考え方や調べる資料へのあたり方とか。書く仕事っておっしゃる通り調べることがほとんどですよね。これは楽しくもあるけど、ときにしんどいじゃないですか。
田中:しんどいよぉ。
図書館に行って山のように本を調べに行って、一番がっくりするのは、30冊ぐらい資料に当たったけど同じ事しか書いてないとき。
それは結局「これ以上そのことについては調べが進んでないんや」ってことがわかる瞬間なんです。
「俺1日30冊、一応付箋貼ったのになんも調べが進んでないよ」って。それが辛い。
──ほんとですよね。
調べものもそうですが、書く仕事をしていると面白いときと、そうでもないときってありませんか? これは私個人の悩みなんですけどね。プロですから、それでも面白がってやろうといますけど。泰延さんは、そういうときはどうされてますか?
田中:ま、そういうときは、まず相手にメールを書きますね。「締め切りとおっしゃいますが、それはあなたの都合じゃないですか?」と。
──(笑)。
田中:やりたくないときはできないんですよ。やりたくないときにできたものって、結局誰の得にもならないから。
後から読み返して恥ずかしいことになってしまうし、クライアントも喜んでないはず。それがWEBに上がっても読む人もいないでしょう。やる気がないところから生まれたスパイラルって凄いから。それって人生の汚点が残るわけですよ。
ところが、最低限自分が面白がってやったことは、締め切りから遅れようが、あいつは約束を守らないと言われようが、最終的にそっちの方がよくなるんです。この本は「出しましょう」って言ってから11ヵ月かかってますからね。
ダイヤモンド社の編集者今野良介さんとのやりとりが、今いろんなところでレポートされてますけど、彼はすごいんですよ。メールのやり取りが。
先日ジュンク堂で、今野さんと2人でトークイベントをしたんです。僕たちのメール、全部さらしてますから(笑)。レポートにも出ています。
──読みました。全部出ていましたね(笑)。
田中:あれでも、ごく一部ですから。
──えーっ!
田中:メールは、多分1000通単位でやりとりしたんじゃないかな。
──すごいですね。そういう間柄だからか、Twitterでの今野さんの泰延さんへの姿勢に愛を感じます。
田中:愛だね。変態ですよ。
──(笑)
「泰延さんがツイートするのは呼吸のようなものだ」って、先日も今野さんが見守るかのようなツイートされてて……
田中:そうなんですよ。なんにもやりたくない僕でも、そういうことが起こるとなんかやるわけですから。自分が好きなことをやりすぎたら、そういう出会いがあって、何かがあるのは、多分間違いないでしょう。
でも、妥協して例えば10個のうち3個、しゃーないから、お金のためにしとこ、ってやっていると、その3個を人は見ますから。「イマイチなことやっとんな」「やっつけてんな」とかね。だからやる気のあることを10個にするべきです。
──じゃあ会社員のときはどうされてたんですか?
田中:会社員のときは、辛かったですよ。だから辞めました。
だってさ、どこかの会社の、どこかの水を、どこかの20代の女子に売る、そういう仕事でしたから。
──はい。
田中:誰に水が売れるかなんて、わからないですよ。ちなみにこれ、ラベル取ってるけど、“いろはす”なんですよ?
──はい(笑)。
じゃあ電通を退職されてからは、どうですか? コラム依頼ってたくさん来たと思うんですが。全て引き受けていたんですかね?
田中:全て引き受けました。「お金? あ、いらないですよ」とか。編集者さんが「いや、でも1万円ぐらい……」と言ったら「じゃ1万円もらっときましょう」。「3万円だけは、他のライターさんにもお渡ししてるので」と言われたら「じゃ、3万円もらっときましょう」。そんな感じですよ。
(カメラに向かって)
でもこれからは、もうそういうわけにはいかないからな!
俺にも生活があるから!
──誰に言ってるんですか(笑)。
田中:社会に言っています。
(カメラに向かって)
この本、ベストセラーやから!
俺は高いんだよ。
アイム・ベリー・エクスペンシブ!
税金が来るんだから(笑)!
──売れていますもんね。
田中:ほんとはね、浅生鴨さんとも話をしてたんだけどね。自分が生活できるぐらいで、税金めちゃくちゃ取られないぐらいに、アベレージで本が売れたら物書きは一番いいんですけどね。数千部とか一万部とか。コンスタントに年何冊か出して、自分も継続して書くモチベーションがあって、それでそんなに高い税金取られずに収入があるっているのが、一番なんじゃないかなと。
──ドカンって売れすぎてしまうと、税金やらもあるし、いろいろ変わりすぎてしまいそうですよね。
田中:そうなの。
(カメラに向かって)
この本、ベストセラーやから!
俺は高いんだよ。
アイム・ベリー・エクスペンシブ!
──誰に向かって……(笑)。
田中:だから社会ですよ。よろしくお願いします。
──わかりました。
<書くことは今も昔も大嫌い。>
──先ほどの話と一部重複しますが、書くことは好きではなかったということですが、それは昔からですか?
田中:書くことは、もう昔も今も大嫌いや。
──書いて楽しくしようみたいな感じには……。
田中:「楽しくしよう」っていうのは書くのが嫌いやから、楽しくしたくなるわけで。誰かに「書いてみてくださいよ」って言われると、「嫌やなぁ、約束しちゃった、エライこと言っちゃった。つまんねー、外で遊びたい、酒飲みたい、映画観に行きたい」って思うけど、まぁ、一応相手の都合とはいえ、約束を守る努力はする。
そのときに自分が「アホなこと書いてんな、俺」って楽しい状態に書いて持っていくためなんですよ。だから書くこと自体は一生嫌いやと思う。
──じゃあ小さいときから、「読書感想文得意でしたー!」とか。
田中:大っ嫌いでした。
──えー!? 意外です。じゃあもうちょっと大きくなって、なんか自分で小説を書いていたとかないですか?
田中:俺は創作に興味ないから。創作する人ってやっぱり「俺の歌を聴いてくれ!」ってことでしょ?
でも、そうじゃない文章って頼まれて書くものだから。で、創作だって面白かったら絶対ね、出版社が買いに来たり、大きい賞くれたりするんですよ。そうじゃない人は歩道橋で一人で売るのがいいと思う。
燃え殻さんを見てみ? 生まれて初めて突如長編小説を書いて、新潮社が買いに来て、それで本が出て、ベストセラーになって、今年の夏「新潮文庫の100冊」に入ってるんやで?
──すごいですよね。
田中:そういうことやねん。それが、「向いてる」。でも燃え殻さんも書くの好きじゃないと思う。
燃え殻さんとよくLINEでやりとりしてるけど、エッセイも新しい小説も「血反吐を吐いてます、嫌です」とずっと書いてる(笑)。
──でも書いちゃうっていうのは?
田中:言われたからじゃない(笑)?
──ははは(笑)。でもその、書かざるを得ない衝動があるんだとかそういうのは……。
田中:それは“歩道橋”行きですわ。燃え殻さんは歩道橋に座ったことないはず。
彼の場合は、cakesの加藤さんに「tweetが面白いからなんか小説っぽいものを書いてみない?」って言われて書いてみたらあんな長くなった、っていうことですわ。
人に言われるんですよ。人に言われたこと以外はやっちゃだめですよ。
──あ、でもそれは確かに。才能って人が見つけてくれるという話をよく聞きます。
じゃあ、書くことは好きじゃないってことですね? ずっと好きじゃないと。
田中:だから、若い間で「書くのが大好きなんです!」って言う人いるやろ? それ大丈夫か、と思う。それは、ひょっとしたら君は“歩道橋”かもしれないよ?
──歩道橋って言い方が……(笑)。わかりやすいですけど。
田中:もう、そういうやつは歩道橋や!
だって、「俺の歌を聴いてくれ」ってことでしょ? 「私の歌を聴いてくれ」ってことでしょ? それはもう歌われてもな…って。
会議とかで「はい!」って何か言ったら、「君の意見は求めてない」って言われる感じやろ(笑)。
──つらいやつですね(笑)。
田中:でもそこから依頼があるかもしれない。
──そこに自分の能力だったり才能だったりが隠れているっていうか潜んでいる。
田中:向いてれば。
──向いてれば。そうですね。
田中:そもそも「これやってくれ」って頼まれる時点で向いてる可能性はあるやん? 「やってみない?」って。
──そうですね。
田中:誰もさ、僕に100m走を走ってくれとか言いに来ないもんね。僕は短距離走に向いてないということが、最近わかった。
──最近ですか?
田中:うん、最近。オリンピックがあるけど「100 m走出るか?」とか言われない。
しかも大阪マラソンの参加証が届かない。
──届かないんですか?
田中:うん、応募してないから。重要なことに気がつきました、応募しないとゼッケンは届かない。
──(笑)。
先ほどの人から頼まれたことに可能性があるというか、才能は人が見つけてくれるという話その通りだなと思います。
田中:うん。例えば、歌手でもめっちゃ成功して大スターになってる人とそうじゃない人の違いは、歌は同じくらいうまくても、違いは、「お、こいつを使って俺も大金持ちになろう」と思った人がそばにいたかどうかなんですよ。
──そうですね。
田中:そう。だから、カラオケ歌いに行っても、「こいつレベルちゃうぞ」と思ったら言いますから、人が。そしたらレコード会社のやつが、「君、カラオケで評判になったらしいね」って来るから。
ただ、youtuberは最近ちょっと違うかなと思ってる。自分でやっていって、自分でゲットしてるのに、推薦人も買いに来る人もいなくても成り立ってる。それはやっぱ枠組みが新しいからやね。出版社もテレビ局も関係ないから。
──はい。そうですよね。
田中:あれはいいと思う。
──そうですね。
youtubeね。個人的なことですけど、うちには小さい子供がいるんです。youtubeが面白いのはわかるけど、他にも良いアニメとか名作が日本にはたくさんあるのに「なんでこれを見るかな?」と思うものを毎日見て……。
田中:え!? 浜田さん、お子さんいらっしゃるの?
──いますよ。
田中:「彼氏いんの?」って聞こうと思ったのに。
──あっはっは! またまたー。お上手ですね(笑)。
<『読みたいことを、書けばいい』を日常に活かすテクニック。>
田中:あのさ、今日一番大事な話をします。初めて会ったのに、「ねぇ、彼氏いんの?」とかおかしくないですか?初めて会ったのにそんなこと聞くのって。でも聞く方法をお教えします。客観視ってことです。
──ほう。
田中:えーと、何さんやったっけ?
──奥村です。
田中:奥村さん。奥村佳奈子さんね? 初対面の奥村さんに、「奥村さん、初めまして。なぁ奥村さん、彼氏いんの?」ってこれ最悪でしょ?
──はい。
田中:ところが、客観視のテクニックを使うと聞けます。こう言うの。
「奥村さんさ、俺たち初めてじゃん? 初めて会ったのに、急に“彼氏いんの? 彼氏いんの? 彼氏いんの?”って聞いてくるやついない?」
──いますいます(笑)。(奥村)
田中:「で、彼氏いんの?」
(一同爆笑)
田中:こう言えばいいんです。こうしたら聞けるから。
──(笑)。
田中:それは、「自分がこうやったら楽しくなる」っていうことをまずやってるからです。これこそ『読みたいことを、書けばいい』なんですよ。
「彼氏いんの?」って人に聞くのは、自分が情報を欲しいっていう欲望でしょ?で、相手にいきなり負担かけてるでしょ? これがだめ!
この場合は、もう浜田さんとか奥村さんという人にターゲットを勝手に想定して自分の欲しい情報を得て、しかも自分の利益になることを売り込もうとしてるわけ。
「あの、彼氏いんの? いないんだったら、ちょっと俺と今晩どう?」とか言いたいわけでしょ? これ、おかしいのよ。
──はい。
田中:そうじゃなくて、一回客観視して、面白い、自分が聞きたいような会話をはさめば笑いが起こり、「いやぁ、いますよ」とか教えてくれるわけですよ、笑いながら。
──うんうん…確かに(笑)。それって、泰延さんがずーっと小さいときからやっていたんですか?後天的にできる…。
田中:あ、それはけっこう盗むのよ、やっぱり。面白いことは盗む。
──ほう!
田中:例えばこないだね、僕がすごい尊敬してる写真家のワタナベアニさんていう人がいらっしゃるんだけど、その人が「先週、大阪の田中泰延のトークイベントに顔と体を出してきた」って言ってて(笑)。おかしいやろ?
そりゃそうやろ、顔だけ出すておかしいやろ(笑)。
──体もいりますもんね(笑)。
田中:面白いから「盗ましてください」ってすぐ連絡したけどね。そうやって集めるのよ。
──なるほどなるほど(笑)。
田中:うん、ワタナベアニさんが「顔と体を出してきた」って言うのは、まったく自分が読みたいから書いてるわけじゃない? なんの利益もないの、それ書いても。
でも、俺も楽しくなってるし、書いてる途中の本人も、そりゃそうだろなと思いながら書いてるから。これなんですよ、これが楽しくなるのよ。
──なるほど。そういうことをもうずーっとやってるから、それを文章でも書けてしまうっていうことでしょうね。
田中:もったいないからね。面白いことって、そんなにないから。新聞開いてみ? ギャグ1個も載ってないで?
──ないですよね。
田中:人が死んだとか、戦争があったとか、車にはねられたとか、ろくなこと書いてない。4コマ漫画だけでしょ? それもだいたい面白くない(笑)。
──確かに、そうですね(笑)。
田中:だから、面白いことは探しに行かないと。で、探したら、その人に「これ使っていいですか?」って言って使わせてもらう。
──そのデータベースが、すごく蓄積されてるんですね。
田中:基本的には、1回聞いて忘れないネタばっかりなんですよ。「小噺して」って言ったらするやつがいるんですよ。それうまいことやった小噺を、もう完コピすればいいんですよ。
──うん、確かに。
田中:言葉ってほんとは、著作権がないの知ってます? ナレッジに著作権あったらだめなんですよ、本来は。僕のこの本は一応値段ついてるけど、それ申し訳ない、僕も生活あるからもらいますけど、ほんとはナレッジって図書館行ったらわかるように、著作権とかお金じゃないんですよ。
なんでかって言ったら、じゃあイエス・キリストがみんなにありがたいお話をしました、ブッダがみんなにありがたい話をしました。
それでみんなが「あぁ、いい話を聞いた」ってみんなに広めるでしょ? 自分もそれを使って生活するでしょ? それに金が発生するか? っていうことですよ。
それと同じように、いい話はタダなんです。断りは入れなあかんことはあるかもしれない。「そのお話使わせてください」って。なんでもお金じゃないよ。
<泰延さんオススメの本>
──この本の中にもオススメの書籍を紹介していますが、それ以外で「これはぜひ読んだ方がいいよ」というのはありますか?
田中:いっぱいあるからね。浅生鴨さんなんかすごいよ。僕の50倍くらい読んでるよ。 浅生鴨さんの事務所入ったらすごいよ、本が全部平積みなの。一生取れないでしょうね下の方。平積みだったら。壁一面平積みなの。平積みて……。
もうコストコのあれみたいになってる。コストコの食品も気になりません?あれ下の方取れるの?
不思議じゃない?コストコのピザとかさ、天井くらいまで床から積み上がってて。
床のピザ、いつ食うんや?
──ローテーションしてるのか気になりますね。
田中:ねえ、気になるわー。今日はコストコの問題について話し合おうと……。
──違います。オススメの本の話です。
田中:本の話ね。どんなジャンルがいいですか?
──私はエッセイが好きなので、おすすめのエッセイを教えてください。(浜田)
田中:鴨さんとも言ってたんだけど 、團伊玖磨『パイプのけむり』。これは長いよ。音楽家なんだけど、ずーっとエッセイ書いてて。やたら量があるけど、どこから読んでも面白い。
あとねエッセイなら東海林さだお。読んだことあります?漫画家なんでね、4コマ漫画。その人のエッセイがもう100巻以上あると思うんですけど、どこをとっても面白いから。ぜひ読んでください。
いやでも…、やっぱり本を読むのって、ちょっと訓練の段階があるから、いきなり難しい本を薦めても……、
あ、洗濯物の(メールの)返事が返ってこない。
──めっちゃ雨、降ってますよね。
田中:絶対濡れてるわ。
あ、(返信来てた)「怪しい雲が来てるから入れました」。
──良かった。
田中:そして、思い切ったメールを送った 奈良新聞から返事が来ない。ちょっと焦ってきた。
あとは、じゃあ浜田さんはどんな本が好きなんですか?本って、いろんなジャンルがあるけど、好きな人にこの一冊あげたいなっていうのは。
──私は……、林真理子さんとか西原理恵子さんとか、強い女性が好きで、ああいう方が書いた生き方に関する本とか。西原さんの『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』が好きです。
田中:なるほど。林真理子さんも西原理恵子さんも大好きだけど、そこに落とし穴があるのは、西原理恵子は漫画家として大成功した、林真理子は直木賞を取って小説家として大成功した。その人が私の生き方って書いてるんであって。
それは宇多田ヒカルが「今日はトンカツが美味しい」って書いたら50万リツイートされるのと一緒なんだよ。
そういう本を読んでこういう本書けばいいんだと思ったら、人生は転落して行きます。
──分かります。
だから林真理子と西原理恵子の生き方の本が面白いと思ったら、彼女たちの全著作を読まないとやっぱり本質がわからない。一つも残さず読むことが大事ですよ。
じゃあ、(奥村)佳奈ちゃん。
──もう佳奈ちゃん呼ばわりですか。…はい。私は……三島有紀子さんの『しあわせのパン』って、映画化もされた……、大泉洋主演の。
田中:あったね。
──映画は端折ってるんで、私の感動ポイントは入ってなかったんですけど、いろんな人の生き様が交錯するような話だったので。命とは何か?とか、そういうところまで書いてあったので。
田中:読んでみます。僕ね、話を聞いたら必ず買うのよ。絶対買う。だってこの一冊あげてくださいってあげてもらったやつが、面白くないわけないんだもん。
みんな人生長いこと生きてるからね、その中の一冊って。
そういう意味で僕が好きな人にあげたい本って何ですか?というのは、『自虐の詩』。業田良家の漫画、上下巻。
これはすごいのよ、ほんとに。前半ただのギャグ漫画なの、後半、下巻の方で大変なことになるのでこれは是非。阿部寛主演で映画化もされたのよ。
今、雷が落ちて猫が叫んだけど、猫に雷が落ちてないか……。
これで、一雨ごとに夏が終わりますね。って何を言っとんねん。
──(笑)。
<「若い頃、俺はかっこよかったんだよ。」>
──では、次の質問です。空回りせず読者も思わず笑っちゃう、文章の中に散りばめられた、ボケのコントロールは何か意識されていますか?
田中:これはもう……飲み屋でクダを巻いている僕を口述筆記してください。
ちょっと収入が2年間で200万ぐらいしかなかったけど。ひどいよね2年間で。でも何の不自由もない。今日も生きてるし、この後は源兵衛で肉が食えるそうじゃないですか。何の問題もないです。ふざけても死なないってことだけは本当に知ってほしい。
──それは子供の頃からこういうキャラクターだったんですか?
田中:でもね、若い頃、俺はかっこよかったんだよ。 痩せてたの、俺は。
──その記事さっき読みました。これですね…。
出典:アイスム(https://www.ism.life/contents/113?fbclid=IwAR2mSWm3d0SK7pw3WsJEAgJ4UTnARgmfMAAADA_X9PFyl4VaziwHyUe4nHI
田中:そうだよ。若い頃はかっこいいから、吉川晃司な訳ですよ。バンドとかやってるわけ。バンドの写真見た?ビジュアル系ですよ。
だから、若い頃はそんなキャラクター出す必要ないわけ。黙ってマティーニとか飲んで、飲み屋でタバコ吸って。「田中さん」とか言われたら、
「……おしゃべりはやめてくれ」って言ってたわけですよ。
──でもその時から今のような面白いところは持ってたんですよね。言わないだけで。
田中:かっこいい人は、黙ってていいんですよ。昔これ、会社入ってた時に岡康道さんという、非常に業界で成功されたCMプランナーの方がいて、TUGBOATって会社を作った人だけど。
その人もかっこいい人なんだけど、モッくんと飲みに行ったんだって、本木雅弘さんね。二十何年前。そしたら、女性も来る、みんなわいわい飲み屋でいるのに、モッくんは一言も喋らないんだって。それは黙ってるのが一番得だから。「本木さん!」ってみんなが来て「はい」って答えるだけ。で、また黙っているらしい。
しゃべって何の得もないわけ。だからもう、僕は昔から……speak up!
──日本語でもないじゃないですか(笑)。
田中:もう誰が話しかけてきてもconversation no。なんだけど体重の増加に従ってもう、指数関数的に口数が多い(笑)。
──そろそろ、面白い自分を知ってもらった方がいいのかなって(笑)。
田中:楽しく生きないと、楽しくない。俺がこんな状態で黙ってても楽しくないっていうことなんだよね。30年かけて僕もあの状態から、ミートテックを着込むようになった。一度着たら、簡単には脱げない。
──じゃあ、少年時代の泰延さんはどうでしたか?
田中:少年時代はね、いちびりやったね。大阪の子は皆いちびりじゃないですか。奥村さん、いちびりってわかる?
──「いらんことしぃ」みたいな意味合いですよね。(奥村)
田中:そうそう。あ、もともと関西?
──三重出身の、滋賀在住です。(奥村)
田中:三重出身の滋賀在住。岐阜在住。皆さんどうも中途半端なところから(笑)。
あるやん、なんか。USJに。
──ターミネーターですかね?
田中:そうそう。ターミネーターの。なんとか麗華。
──綾小路。
田中:そうそう。USJのターミネーターのアトラクションで綾小路麗華って女性がいて「
今日はどこから?」ってお客さんに聞くんだよね。それで例えば「滋賀県」ってお客さんが答えると「中途半端なところからありがとうございます」って言うの(笑)。
あなたはどこから?
──岐阜です(氷上)
田中:岐阜!岐阜!なんとまあ近くも遠くもない(笑)。
──確かに言うてますね(笑)。そういうとこから仕入れるってことですね。
田中:やっぱ関西だから、基本的にふざけていないと。浜田さんは大阪の方でしょ?
──徳島です。(浜田)
田中:また中途半端な(笑)!
しかも海外じゃないですか!
──違いますよ!島国ですけどね(笑)。(浜田)
田中:大阪の人は価値観が逆転しているんです。一番悲惨なことした人が一番ヒエラルキー高い。バナナの皮があったら、率先して滑りに行って大怪我するやつが、たんこぶ作るやつが、ヒエラルキーの上位なんです。あの滑りにいった、「あいつおもろいやつ」と。うんこ落ちてたら踏みにいって靴の裏につけて「くさっ!」っていうやつが一番かっこよくないですか?
──分かります。
田中:そうでしょ?だからふざけきったやつ、状況を読まなくてふざけきるということが、発想がもう倒錯してるんですよ、大阪は。
でも大阪もそういう人ばっかりやったら、大阪がめちゃくちゃなりますから。大阪には、警官みたいな顔をした警察官もいるんですよ。
──(笑)。
田中:銀行員みたいな堅い顔した銀行員もいるんですよ。だから大阪の人は生きていける。まあでも、ふざけがちな、たった97%の大阪人によって、大阪っていうのは面白くなってる。
──そういう空気は感じます。大阪に住んでみたら、みなさん、ボケるのは当たり前。
田中:いちびった小学生、中学生やったけど、高校とかちょっと18くらいになってきたときに、「あれ?俺ちょっと黙ってた方がいいわ」となって、それから会社入ってすぐに元の自分に戻っていくという。一瞬悩んだけどね。
──あったんですね(笑)。
田中:今はね、クマとしての余生が。
──クマじゃないですよ(笑)。
では質問に戻るとボケのコントロールは、もうずっとずっとやってきたことだよ、ということですね。
田中:Twitterとか見てても、大阪の人の返しって異常でしょ。面白い。僕大体、面白い返しが来たらリツイートして、皆に「ほらまた、いちびりがまた寄ってきた」ということを見せるんですけど、大体僕がリツイートしてるのはほんまにおもろいですよ。僕のTwitterの反応って三段階に分かれてるんですよ。まずはリプライなり引用RTがきて、超面白かったらリツイート。それから、もっと僕も被せたくなったら引用リツイート。それから、まあまあ悪くはない、「面白い、読んだよ」っていうのはいいね、ハートマーク。無印のやつは、おもんない。
──覚えておきます。
田中:僕のTwitterは、お笑い漫画道場ですよ。川島なお美ですよ。
こちらのインタビューは3回に分けて配信します。明日22時にまたお届けします。
インタビュー 浜田 綾、奥村佳奈子
テキスト 今井慎也、安里 友芽、佐伯美香、塩谷麻友、原田美鈴
撮影 遠藤稔大
編集 浜田 綾、奥村佳奈子
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2019年11月12日
書店員向けメールマガジン【箕輪書店だより】2019年11月号 特別配信 1/3
【箕輪書店だより 11月号 特別配信】 毎月月末にお届けしている箕輪書店だよりですが、今回は、特別配信ということで、田中泰延さんのインタビューを3回に分けてお届けします。 ----------
2019年11月11日
書店員向けメールマガジン【箕輪書店だより】2019年10月号
【 箕輪書店だより 10月号 目次 】 1. 今月のコラム 箕輪厚介 2. ロングインタビュー 多様性の時代、書店のコミュニケーションの方法はもっといろいろあっていい。『箕輪書店だより
2019年10月31日
【 箕輪書店だより 9月号 目次 】 1. 今月のコラム 箕輪厚介 2. 書店員インタビュー 変化が激しい時代だからこそ映える魅力がある 代官山 蔦屋書店の書店員、宮台由美子さんが語る思想哲学と
2019年09月30日
【 今月の目次 】 1. 今月のコラム 箕輪厚介 2. 編集者インタビュー 好きなものを好きと言えるように 放送作家・寺坂直毅さんの憧れと愛情が導いた夢への道筋 3. 書店員インタビュー 今
2019年08月31日
【 今月の目次 】 1. 今月のコラム 箕輪厚介 2. 編集者インタビュー 「売り場づくり」がトリプルミリオンセラーを生んだ 『ざんねんないきもの事典』編集者・山下利奈さんに、大ヒット作誕生のワ
2019年07月31日