書店員向けメールマガジン【箕輪書店だより】2020年9月号
1. 今月のコラム 箕輪厚介
2.編集者インタビュー
「本質を問い直すことで、活路を切り開く価値が生まれる。」
『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社)を手がけた編集者の柿内芳文さんと考える、これからの書店のあり方
3. あとがき
箕輪書店だより 編集長 大西志帆
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1.今月のコラム
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箕輪です。
今月も読んでいただきありがとうございます。
この前、「映画館に人が戻らない」というニュースを見ました。コロナが落ち着いても映画館に人が戻らないというのは、「家で映画をみる」という習慣が一般化したからだと言えます。映画館に足を運ぶことは確かに体験としては面白いけど、ある程度Netflixが習慣化してしまった人にとっては、映画館は選択肢から除外されるようになった。
この流れは映画館だけにとどまらず、今後もありとあらゆる所で起き続けると思っています。スーパーも家電量販店も、コロナの影響で強制的にネットショッピングをやるようになってそれに慣れてしまった人にとっては、もう行く必要のないものになってしまった可能性があります。
本屋さんでも同じです。今までは「紙の本を本屋さんで買う派」だった人も、外出自粛期間は強制的にAmazonやKindleで買わざるを得なかった。それが習慣化されて、たとえコロナが落ち着いても、本屋さんに来る人が減ってしまうと想像しています。
じゃあどうするかというと、まず、「便利さという機能は全てインターネットに置き換えられる」と割り切ることです。
便利という一点に絞って勝負すると、やはりリアル店舗はインターネットには敵わない。だとしたら、もともとコロナ前から傾向としてあった、「体験価値を上げる」ということが、これからより一層需要になってくると考えます。
映画館でいうと、大きいビジョンで見られるという点でネットでは対抗しづらいところです。でもそれに甘んじず、もう一歩上をいった本当のVIP体験、例えばチケット代を5,000円や10,000円に値上げしてでも、ベッドみたいな所に寝そべって高級料理を食べながら映画を見られるという体験を提供するなどが考えられます。単純に映像をみることだけ考えるとやはり便利なものに負けてしまうので、あくまでそこに足を運ぶ理由となる「特別な体験」を提供しなくてはいけないのです。
話を戻して本屋さんで考えてみる。やはり、必要な本を探して買うという機能だけでは、オンラインが習慣化したこれからの時代では厳しいと思います。エキナカなどの立地で勝負できるところはAmazonに対抗できますが、いわゆる街の本屋さんだったり、商業施設に入っているような大型書店は、便利さではAmazonに勝てません。
そこで、体験価値をどのように上げるかをメチャクチャ考えなければならないと思います。
中国ではテーマパークのような本屋さんができ始めていますが、それに近い形で、内装からなにから世界観を完璧に作り込んで、その本屋さんに1時間行くことを1週間も前から予定しておくようなものになっているとか。行くこと自体が「イベント」になっている必要があります。または、そこに行ったら絶対にAmazonでは手に入れられないような本との出会いが確実に待っていたりだとか、コンシェルジュが10分間相談に乗ってくれて、その人に合う1冊を選んでくれるとか。
明らかにデジタルでは対応できないアナログの「体験価値」を提供する。という風な感じにした方が良いと思います。
そうするには今の人員では足りないと思うので、ファンクラブ会員みたいにしてサブスクリプションモデルにするのはどうでしょう。コミュニケーションや体験への対価というのは多少高くても人は払ってくれるので、本屋さんを「体験価値を提供する場所」だと定義づけすると実現できるのではないかと思います。
「体験を売る」ことに思い切ってシフトしていくということですね。
そんなことを、「映画館に客が戻ってこない」というニュースを見て最近思いました。これからの時代の本屋さんの可能性を、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。
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2.編集者インタビュー
『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社)を手がけた編集者の柿内芳文さんと考える、これからの書店のあり方
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編集者の柿内芳文さんは、20代で『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』や『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(どちらも光文社新書)といったベストセラーを手がけ、その後は『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)、『ゼロ』(同上)、『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)など、今も書店で売れ続ける数々のロングセラーを手がけています。
このたび、No.1若手ベンチャーキャピタリスト(VC)である佐俣アンリさん初の著書『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社)の編集を担当されました。
同書への思いや編集業に対する姿勢、そして書店員の方へのメッセージを伺いました。(取材時:2020年8月)
「本質を問い直すことで、活路を切り開く価値が生まれる。」
◆「週刊少年ジャンプの主人公」に出会ってしまったような衝撃。
ーー本日はありがとうございます。『僕は君の「熱」に投資しよう』著者の佐俣アンリさんとは、どんな出会いだったのでしょうか。
柿内:アンリさんと初めて会ったのは、5年ほど前になります。私が編集を担当した『インベスターZ』という投資をテーマにした学園漫画で、「ベンチャー投資編」のネタを集めるために取材したのがきっかけですね。当時、ベンチャー投資について全く知識がなかったので、VCと呼ばれる人に片っ端から話を聞きに行っていました。その中でも、当時まだ31歳だったアンリさんが別格に面白くて。
ーーそれは、話してる内容がですか?
柿内:話してる内容もそうだし、キャラクターにも惹きつけられて。いわば総合的にですね。直感的に「ああこの人すごいな、すばらしいな」と思ったんです。例えるなら、週刊少年ジャンプの主人公と出会ってしまった、みたいな感じ。
『ONE PIECE』でも『キングダム』でも、多くの登場キャラが主人公に影響されて、どんどん仲間になるじゃないですか。僕も、アンリさんという人間の魅力にやられて、「この人のこともっと知りたいな」って思ったんですよ。本になるかどうかは全くわからなかったけど、ライターの森(旭彦)さんを引き連れて、話をずっと聞きに行っていました。
ーーよく5年間も熱量が途切れなかったですね。
柿内:形(本)にするのが「目的化」してしまうのは良くないと思っているのですが、実は途中で一瞬それになりそうになって、もう一回初期衝動を思い出したんです。
アンリさんに取材した帰り道って、すごくテンション上がるんですよ。僕も森さんもどうしようもなくその熱に絆(ほだ)されて。森さんなんて、向上心が刺激されて30歳半ばで突如イギリス留学を決めたくらい。完全に絆されたんです。そういうアンリさんのパワーを読者に届けたかったんですね。
アンリさんは、若い人に対する圧倒的肯定感を持っている方なんです。若者の経験値の低さや暴走も全部ひっくるめて、その「熱」を肯定してくれる存在で。それでいて、ちゃんと成長も求めるシビアさもあって。
本来なら、投資家として自分が成功することを考えて確実性の高い投資をすればいいのに、次の世代のことを真剣に考えているからこそ、あえてリスクの高い「シード投資」(事業開始して間もない企業に行う投資)をして、どう転ぶかわからない大勝負に挑んでいく姿を見せてくれる。
高校生とか大学生の時、周りにそういう大人が一人でもいてくれたらラッキーですけど、なかなかいないですよね。だからこそ、アンリさんみたいな人のことを世に出さないといけないと思ったんです。
本の良いところは、時間と空間を超えて普段なら交わることのない人間と出会えること。先日、アーティストの会田誠さんが「16歳の時にヘルマン・ヘッセの 『デミアン』という本を読んで芸術家になることを決めた」ってツイートしていたんですが、そういう風に、本って国や年代を超えて読者に影響を与えてくれるものです。
身近なところには自分の熱や挑戦を理解してくれる人がいなくても、「いいから、いったれいったれ!」みたいに全肯定してくれる大人がいることを、若者に知ってほしかった。日本に圧倒的に足りないのはそこだと思うんですよね。
◆意思が習慣になり、習慣が哲学をつくる。
ーー柿内さんも同じように若い方を肯定する考えをお持ちだと思うのですが、なぜ、ここまで若い人のことを信じられるのでしょうか。
柿内:やっぱり歳をとれば若い人を未熟だなとも思うこともあるし、若さの可能性を信じたけど成果が返ってこないということもありました。だけど、それを乗り越えるのはもう「意思の力」しかないと思っています。
その上で、若い人たちは「ポジションを意識する」ことを一つの戦略として持っていてもいいのかなと思っています。アンリさんはVCを始めた当時、おじさんの投資家はたくさんいても、アグレッシブに投資する20代のVCがいなかったことに目をつけ、そのポジションを取りに行ったというのがあって。起業経験もない若造に何ができるのかって馬鹿にされたけど、そこが「生き筋」だと信じて勝っていった。
今でこそ僕も若い人に向けて出版活動をしていますが、アンリさんと同じように、ポジション取りから始まったんですよ。それこそ最初は、新卒で新書の編集部に配属されて、新書って40代、50代以上の知識レベルの高い読者をターゲットにするメディアで、20代前半の自分には全然興味がなくて(笑)。どうやったら先輩みたいになれるかって考えたんですけど、それじゃ勝ち筋が全く見えてこなかった。
だからこそ先輩とは違うことをやらなきゃ生き残れないと考え、世間的には「無名、若手、新人、未経験」みたいな、本来は新書に向かない人を著者選出の基準に考えるようにもなりました。それに僕自身、専門的なことも学術的なことも、本の作り方もわからないズブの素人だったので、だったら読者と同じ岸に立って、自分と同世代の人たちの「知の入り口」としての新書を世に出していこうと考えました。僕は「プロの素人」って言ってるんですけど、そういう読者目線で次世代に向けて本を作る立ち位置が空白だったんですよね。
だから正直なことを言うと、若い人に期待するという考えはもともとゼロです。生き残るために見つけたポジションでした。
ーーそうなんですね(笑)。
柿内:ただ、最初は生き残るためのポジション取りだったとしても、それを10年くらいやっていると、いつの間にかそれが自分の思想になっているんですよね。そういう意味で、哲学って実は単なる習慣だと思うんです。思想とか性格って、生まれつきのものではなく、日々繰り返されることで定着した習慣にすぎなくて、その時々で意思決定し続けることが大事なんですよね。
若い人に任せたら失敗もするし、やっぱ経験不足だなとか、ダメだなあとか思うことはもちろんあるんですけど、「それも承知の上で若い人にかけるべきだ」って意思決定し続けるという習慣が、若い人を思う気持ちを育んでいく。何も、聖人君子だから次の世代に期待しているということではないんです。
純度100%で「若い人たちのため」「次の世代のため」と思っているわけじゃなく、このポジションが常に空いているという実情もある。だから、意図的にやっているところ半分、本心で思っているところ半分っていう感じですね。
ーーまだ見ぬ才能と出会った時、柿内さんのように自分の心が動いた瞬間の感動を信じ続ける力はどのようにすれば培えるのでしょうか。
柿内さん:そこが、僕の一番の能力だと思っているんです。僕、すごいミーハーで、いいなと思うとそれに没頭して、他人がどう思うかっていうのはまるで考えないタイプなんですよね。だから、いいと思ったことをとことん追求できる。僕の場合はたまたま就いた仕事に、その能力が生かせたということなんです。
話がずれちゃうかもしれないですが、昨夜テレビで女優の森川葵さんが、ヨーヨーの大技を習得するチャレンジをしたんですよ。そうしたら、なんとヨーヨーのチャンピオンでも習得するのに数ヶ月かかるような技をたった4時間でできるようになっちゃったんですね。チャンピオンも驚愕していて。もう、明らかに才能があるんですよ。ヨーヨーの。
しみじみ才能って恐ろしいなって思いました。努力とかを軽々と超えていってしまう。だから、自分の能力とやっていることがマッチしていないって、すごく不幸だと思うんです。でもほとんどの人はそのことに気づいていない。あまり才能がなくても、やり始めたことだからやり続けてしまう。マッチしていなかった時は、アンリさんも言っていますけど、挑戦の分母を増やして、自分の才能が最大限発揮できる「正しい場所」を見つけていくしかないですよ。
ーー自分の才能が見つからない人は、見つかるまで探し続けるべきだと思いますか?
柿内:編集者は「才能取扱業」なので、僕自身も才能ある人を多々見てきていますが、才能っていうのは生きるも生きないも環境とか出会い次第なところがあって、見つかるのはほんのちょっとしたきっかけだったりするんですよね。
少なくとも、30歳ぐらいまではいろいろなことを試してみるのがいいと思います。これだって瞬間は、本人が一番気づくと思うんで。
結婚と一緒で、この人が本当に「運命の人」かどうかなんて疑いだしたらキリがない。この人とは相性が合うなとか、この人とだったら暮らしていけるなとか、決め手となるものがあるから結婚するわけですよね。だから、「これは自分の才能かも」って感じたらもう思い切って覚悟を決めて、あとは能力を磨いていくこと。決めた後に必要になるのは、それを本物に変えていくという意思の力だと思うので。
そして、才能を磨いていくためにはやっぱり日々の訓練が大切です。僕の場合、趣味にしているB級グルメの食べ歩きだったり映画鑑賞っていうのは、なんにも仕事に関係ないようで、実は編集業のための重要な訓練にもなっているんですよ。「この店は素晴らしい!」「この映画、面白い!」って自分の心が動いたら、もうずっとそのことばかり考えている。なぜ素晴らしいと感じたのか、なぜ面白さが生まれるのか? 目の前の一個の事象をどれだけ自分の言葉で考えられるかがキーになります。
で、それをひたすら会った人に話すんです。「柿内さん、その話この間も聞きましたけど…」みたいな苦情が多発するんですけど(笑)、自分の感情が動いた事象の輪郭をはっきり理解するまでは、1週間でもずっと同じことを考え続けているんですよ。
ーーそれが、一つのテーマを突き詰めるところにつながっているんですね。
柿内:そうだと思います。自然に考えてしまうところもありますが、歳とともに能力が衰えるかもしれないので、半分は〝思考の筋力〟をキープするためにやっているようなところもありますね。筋力が衰えないように、ジムに通っているようなイメージです。
そうやって徹底的に自分の感情を突き詰めておかないと、まだ世間的に名の知られていない著者の本を作っていっている時にふと、「これ誰が求めてんのかな」とか「これ売れるかな?」って疑いが入っちゃうんですよね。そしてその不安に負けてしまうと、売れてる本のモノマネだったり、売れ線のパッケージや過去のやり方なんかに逃げて、失敗のリスクを減らそうとしてしまう。でもそういう中途半端な本が売れることってないですよね。雑音や不安をはねのけて、著者の才能をただ突き詰めた結果としての本を作るためには、編集者自身が心の筋力をつけておかないといけません。
ーー柿内さんでも不安になることがあるんですね。
柿内:そりゃ、ありますよ(笑)。本を作る時って、最初は自分自身の没頭から入って、それが世間に求められているかとかは知ったこっちゃないって感じで突き進むんですけど、それだけで終わらないことがまた重要で。僕の場合は今までの没頭が嘘であるかのようにいったん冷静になって、あえて突き放して考えられる。「この無価値なものを、どうすれば人に売ることができるのか」って(苦笑)。没頭しながら俯瞰するーーこれも僕の特徴的な能力のうちの一つですね。
ーーそちらは後天的に身に付けたのでしょうか。
柿内:どうでしょう。男三兄弟の三男だったので、小さい頃から兄たちをちょっと俯瞰的に見てきたんです。こういうことすると怒られるんだなって常に観察していたので、その繰り返しで自然と身についたのかもしれないですね。
◆ほんとうの価値は、奥底に眠っている。
ーー今、コロナの影響もあり書店は苦しい状況に直面していますが、もし柿内さんが書店員だった場合、どのようにして活路を開いていきますか?
柿内:うーん、悩ましい問題ですね。現場に立っていない人間の仮定の話は気楽なんでなんとでも言えてしまいますが、もし僕が編集的な思考を持ったまま書店員になったとしたら、まず本屋というものを問い直すことから始める、というのは言えるかと思います。「本屋の本当の価値ってなんだろう 」と。
「本当に人は本屋を求めているのか 」っていうレイヤーまで一回落とし込んで考えてみる。そうやって問い直して、問うたものに対しての自分なりの解決策を試していくしかないと思います。自分の答えが合っているかどうかは気にせず、まず自分なりに本屋をゼロベースで定義づけし直すことが重要だと思います。
例えば……、そうですね。雑誌でよく「本屋好き特集」ってあるじゃないですか。じゃあなんで「八百屋好き特集」はないのか、と考えてみたり。なんでだと思います?
ーー少数派だからでしょうか。
柿内:そう。要するに、マニアだからですよね。もしかして八百屋で「この店のパプリカの仕入れと並べ方がたまらない」とか思ってる人も一定数いるかもしれない。でもそれは表に出てこなくて、一方で「本屋に行くと落ち着く」とか「この装丁がたまらない」とか言うと、なんか市民権得てるじゃないですか。
ーー得てますね。
柿内:冷静に考えると、それって実はマニアなんじゃないですか?
ーーたしかに、、、(苦笑)。
あえてそういうところから考えていって、じゃあ本当に人が求めてるものってそもそも本なのか?とか、「本屋にいると落ち着く」っていうことの本質は何なのか?とか。そのレイヤーから考え始めるんです。自分の言葉でありさえすれば、べつに高尚な答えでなくても構いません。
僕は新書やビジネス書や漫画を作っている時、自分自身を「新書の編集者だ」「ビジネス書の編集者だ」「漫画の編集者だ」とは全く思っていないんですよ。こういった記事とかイベントではそうやって紹介されたりするんですけどね。本っていうのは、ジャンルにかかわらず本質的に「読者に体験価値を提供するもの」だと考えているので、僕はシンプルに「エンターテインメントをやっている」と思っているんです。だから、僕の中では自分の編集する本とクリストファー・ノーランの新作映画や行列のできる飲食店は、常にライバルであり同価値なんです。
書店員さんも同じで、最終的な見え方としては本屋という形におさまるかもしれないですけど、レイヤーを変えて考えてみれば、新たな価値を持った本屋像が見えてくるかもしれない。ノーラン映画に対抗できる本屋があれば、行きたいですよ(笑)。不況になったり売上が下がってきたりした時に、「それをどう埋めるか」っていう発想だけだと根本的な解決にはならないと思うんです。不況でもその本質の価値が落ちないような、新たな解像度で本屋を捉え直す必要があるんじゃないでしょうか。
そうやって導き出した自分なりの答えは、変化していってもいいし、人と違ってもいいんです。色々やってみた結果、5年後には自分自身全く違う答えにたどり着いているかもしれないし、一般には理解されないかもしれない。上司に言ったら「何言ってんだお前」って言われるかもしれない。
でも、それをやっていくことでしか活路は見出せないし、それを「いいね」と肯定してくれる「大人」が必要なんです。だからこそ、やっぱりアンリさんのような存在を、世に提示していかなきゃいけないと思うんですよね。
ーー本質を考え抜いた先に、表面上は見えなかった活路が見出せるということですね。
柿内:そうですね。僕が思うに、書店の最大の価値の一つは、実は本ではなく「お客さん」です。知的活動にお金や時間といったリソースを割く人って、圧倒的に数が少ないですし、外見だけでは判別もできないですよね。でも、本屋によってその存在が可視化されるんですよ。実は、レアなポケモンの集うところが、本屋さんです(笑)。
ーーその視点はありませんでした(笑)。
緊急時には、本とかエンターテインメントとかって衣食住じゃないから不要だっていう人もいますけど、衣食住と同程度に、エンターテインメントがなきゃ死ぬ人はたくさんいるはずなんです。肉体ではなく、精神が。
先輩編集者が、本っていうのは「魂の食べ物」なんだと語っていましたが、まさに「精神の衣食住」なんですよ。書店は生きるために必要な生活必需品を提供しているとも言えるんです。そんな捉え方をしたら、また本屋の存在意義も変わるかもしれないですよね。
だから大切なのは、自分がやっている仕事にどれだけ自覚的でいて、その意味を根本から考えられているか。これは、書店員さん編集者関係なく、どの仕事においても全く同じアプローチだと思うんです。
そして、自ら導きだしたその仕事の本質を達成するために必要な能力は何かを考え、自分にその能力があるか常に問いかける。もしあったとするなら、その能力を愚直に磨く。磨き続けていく。ただ、それだけですね。
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3.あとがき
箕輪書店だより 編集長 大西志帆
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「箕輪書店だより」へご登録いただきありがとうございます。今月号より、編集長を引き継ぎました大西志帆と申します。
本屋さんは、見つけたらふらっと寄ってしまう存在。何か面白い本はないかと思い、気づけば買う予定のなかった本を3、4冊も腕に積み上げレジに向かってしまう存在です。学生時代は、乗り換えの待ち時間にふらっと本屋さんに立ち寄ったら出られなくなり、何本も電車を逃す(そして授業にも遅れる)というようなことを、よくしでかしておりました。本屋さん大好きです。
9月号では、『僕は君の「熱」に投資しよう』を編集された編集者の柿内芳文さんにご登場いただきました。
「本質を問い直す力」
柿内さんは、ある物事や事象について、一度自分の言葉でその輪郭を捉えきちんと理解することを大切にされているといいます。便利になって、何でもスマホでその場で答え合わせできてしまう今、そのように「自分の頭で深く考える」ということをおろそかにしてしまっていたな、と痛感しました。
あらためてもう一段深いレイヤーから物事を捉え直すことで、打開策が見えてくる。他者の評判や空気に流されることなく、変わらない固有の本質を見出すことが大切なのだと考えさせられました。箕輪さんもコラムで言及していますが、こんな時代だからこそ、新たな可能性を探ることが、次の扉を開くのだろうと思う次第です。
『箕輪書店だより』では、これからも読んで勉強になる、ワクワクするような内容をお届けしていきます。感想や、ご意見ご要望、冊子送付などご要望がございましたら、ぜひハッシュタグ「#箕輪書店だより」をつけてTwitterでつぶやいてください。箕輪編集室のメンバーがすぐに伺います。では、来月もメルマガでお目にかかれることを楽しみにしています。
<箕輪書店だより 9月号>
編集長 大西志帆
*取材...大西志帆・柳田一記・土居道子
*書き起こし...清水えまい・氷上太郎・畝尾 知佳・黒羽大河・照島和幸・柴田有子・Iida Mitsuhiko・氷上太郎
*執筆...大西志帆
*制作協力…三宅康之・柳田一記・土居道子・黒羽大河
<バックナンバーはこちらから>
https://mail.os7.biz/b/mhrC
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