このメールマガジンは、日頃書籍販売の現場でご尽力されている全国の書店員様同士のコミュニケーションの一役となれば、という編集者・箕輪厚介の想いから実現いたしました。 具体的な内容といたしましては、箕輪厚介による本の売り方についてのコラムや新刊インタビュー、書店員さんや編集者さんへのインタビューなどを掲載する予定で、月1回・無料での配信予定です。

箕輪書店だより

書店員向けメールマガジン【箕輪書店だより】2019年5月号

2019年05月31日

【 今月の目次 】
1. 本の売り方を考える 箕輪厚介 

2. 編集者インタビュー
「情熱と直感だけで企画はできない」ダイヤモンド社第一編集部編集長・市川有人さんの上流でつかむコンセプト設計論

3. 書店員インタビュー
「学びと体験をつくる場に」 銀座 蔦屋書店、兼頭啓悟さんの考える “編集” 目線の書店づくり

4.著者インタビュー
「どうすれば人生の好循環が生まれるか、ずっと考えています」我慢することが大キライな勝間和代さんの人生術

5. あとがき
 箕輪書店だより 編集長 柳田一記


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1. 本の売り方を考える
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*「本が売れない」「出版不況」と言われているなか、ベストセラーを連発する編集者・箕輪厚介がこれからの本の売り方について、日々考えていることを語ります。

<驚くべき課金が相次いだ『実験思考』の販促を振り返る>

『実験思考』 の仕掛けに関して言うと、まず俺じゃない人がやってもバズらなかったと思う。施策が面白いと話題になったけど、光本さんがリターンの設計の仕方やサイトをかなり作り込んだわけだから、当然と言えば当然なんだよね。

もう1つ大切なのは、箕輪編集室やNewsPicks Bookのような強力なコミュニティを持っているということ。「次は何をやるんだ?」と期待をしてくれる人がすでにいた。これは単純に他の本でよくわからない誰かがやっても、たぶんバズらなかった。

ただ忘れちゃいけないのが、こういうことをやるとみんな施策のほうにばかり意識がいくんだけど、こういう時こそちゃんと中身を頑張ってつくる、ということが大事なんだよね。

「すごいアイデアだな」ってみんな言うけど、それは当然としてその下準備が大切。長い年月をかけて、期待を寄せてくれるファンをちゃんとつくってきたし、いつもの本以上に、内容もしっかり作り込んだ。

金はあるところにはあるから、ちゃんとやればクラファンにせよ何にせよ、ある種の高額リターンみたいなものって集まると思う。

今回のリターンにあった光本さんと会社をつくる権利って普通はお金で買えないでしょ。まさに実験だったけど、たぶん回収できると思っている。お金として回収できるかどうかはわからないけど、経験を得られると思ったら全然安いくらいだから。

光本さんの本のおもしろさと、ムーブメントをつくるプロモーション。この両立が大事で、ただプロモーションだけを派手にやっても意味がない。箕輪編集室のみんなに今回も動画をつくってもらったり、事前に施策内容を共有して「『実験思考』っておもしろいことをしそうだ!」という空気を醸成していて。緻密に一個一個の階段を上っていくことが、今回の結果に繋がるんだと思う。「こういうサイトをつくったらお金が集まるんだな」なんてマネをしても、たぶん誰もうまくいかないと思うよ。


<企画力だけでは絶対にうまくいかない>

どんなに素晴らしくても、企画だけだと火は点かない。ストーリーがないと。

この先は何がしたいかというと、課金サイトを独立させていいなと思っていて。要は、著者にもっとお金を払いたい人っていると思うの。たとえばホリエモンだったら1億円で一緒に事業やるとかでもいいし、小説家の人だったら50万円でアナザーストーリーを送りますとかリワードは何でもいいんだけど。贈りたい相手に「直接課金する」というのが、このQRコードをあらゆる本に入れることでできるんだよね。

「価格自由」がNewsPicks Bookには毎回入ってるというのもありだろうし、幻冬舎の本に全部に入ってるというのもできる。これが集英社だろうと講談社だろうと、価格自由を使っていくとなれば、ある種本の売り上げ以外の課金システムができて、新しい出版システムが可能になっていくと思う。

今回の課金サイトは技術的にはすぐ作れそうだし誰でもできそうなんだけど、要は募金箱をどこに置くかということで、ただ単に置いてもだれもそんなに募金しない。でもめちゃめちゃ熱狂してるところに置けば、みんなお金を入れるわけで。だから箕輪本やNewsPicks Bookみたいな熱狂が生まれる場所に入れると、みんな課金をしてくれると。

今回わかったことは、本は壮大なチラシでありパフォーマンスの一つだということ。そのパフォーマンスの量に応じて、さらに本の売り上げ以外の課金が集まる。そういうことが今後もできたら、出版社にとって新しいプラットフォームの一つになる気がする。


<現在制作中の“あの人”の「ハッタリ」をテーマにした本について語る>

西野さんとかもよく言うけど、いまの時代ってお笑いの“ツッコミ”と “ボケ” でいうと “ボケ” の時代。おれが歌ったりバカなことを言うのも、ツッコんだり応援してくれる人がいる一方で、「意味わかんねぇ」とか「ダセェ下手くそ」って言う人もいる。ステージに立つとその周りにガヤガヤ言う人が集まるじゃん。

その姿を客観的にみると叩かれているようだけど、もっと引いた目で見ると、そいつらの発言がめっちゃプロモーションになっていたりするんだよね。そのうちの何割かはいつの間にかファンになっていたりして、影響力も上がる。だからステージに立つ人が強いんだよね。

ハッタリもそうで、今のような、仕事が遊びみたいな時代になると時間が余ってみんなやることがないからエンタメをやりたいって人が増える。そうなった時に強いのは “ボケ” の人。

要は自分はバカみたいなことはできないけど、そういう人を応援はしていたいとか、近くで見ていたいとか、お金を払うことによってコミットしたいっていうニーズがすごく高まっていて。昔は価値の尺度が「どれだけそのビジネスがうまくいくか」だったんだけど、今はそんなことよりも楽しいかどうか、わくわくするかどうかのほうが大事。

大きな夢を語る人、しかもそれが現実的じゃなくてハッタリみたいなことを言う人が、人も金も巻き込む。ホリエモンのロケットとか西野さんの美術館とか、僕が紅白目指すとかなんでもいい。

「それハッタリでしょ」「ムリでしょ」って言う人がいるけど、「でも、おもしろそうだよね」っていうことに人は魅了されていく時代になってきているんだと思う。ホリエモンは昔からそういうハッタリ王で、テレビ局買収騒動も結局買ってないし、ライブドアを時価総額世界一にするって言ってしてないし、選挙もやったけど落ちてるし、ただロケットが飛んじゃったからちょっと都合が悪いんだけど(笑)。

まだ実際の夢には到達していない。だからなに1つ完結させてない。なのに毎回「いやそれムリでしょ」っていうことをぶち上げて挑戦するんだよね。

ある種、その挑戦する過程にお金と人がついてきている。これはもういまの現代を象徴していて、おれも西野さんもそう。挑戦すること自体がコンテンツで、それが成功するかどうかって、ぶっちゃけ誰も見ていない。っていうか成功しちゃったら終わりだから。

常にどれだけのハッタリを、次から次に手を変え品を変え、かまし続けられるか。そういうハッタリ力があるやつが、これから魅力的になっていくんだと思うよ。

『多動力』を読んでみんなが行動的になっても、突き抜ける人とちっちゃくちょこちょこやる人がいる。その2つが一番違うのは、本当にハッタリをかましてるかどうか。かまし方がうまくないと、人はついてこないんだよ。逆にハッタリの裏では圧倒的に努力することがあるということを、伝えるような本になるかな。



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2. 編集者インタビュー
「情熱と直感だけで企画はできない」ダイヤモンド社第一編集部編集長・市川有人さんの上流でつかむコンセプト設計論
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市川さんが編集長を務めるダイヤモンド社書籍編集局第一編集部ではヒットを出す編集者が続々と育っています。その理由は、出版と書籍に真摯に向き合った独自のスタイルありました。市川さんの打ち出している企画づくりと人材育成の方法、そしてこれからの書店の未来について聞きました。


<個人の「不」を見つけ出せ ヒットメーカーはネガティブが共通項>


―企画づくりの際は、市川さん自身の悩みから考えることが多いですか?

そうですね。企画を立てるうえでは、基本的には段取りや流れがありますが、おそらく私の場合、「企画」の多くは自分の抱える悩みから生まれているんだと思います。

リクルートの新規事業のフレームワークで知ったものの1つに、「不満」「不便」「不安」などの「不」を見つけるというのがあって、読者の「不(問題)」を著者を通してどう解決するかを考えるというものなんです。

私のいる第一編集部では、個人が抱える「不」の解決方法のストーリーを考えるわけです。

企画とは「誰が、誰の、どんな問題を、どう解決するか」ということです。

読者の「不」にどれだけのマーケットがあって、その悩み方にどれくらい共感性があるのか、それをどういう切り口で解決するのか。第一編集部の編集者にはそういった観点で考えることを基本にしてもらっています。


―市川さんから見て売れている編集者は、どのように企画を立てているのでしょう?

日常生活の中で感じる個人の問題意識が重要で、ダイヤモンド社においてもヒットメーカーはネガティブ系の編集者が多いと思います。

何か自分の中に闇を抱えていて、社会、或いは自分に対して、普段から怒りやルサンチマン(嫉妬心)を感じている人。しかもその感覚に対して「今どうしてこう感じたんだろう」と素直に向き合える人です。

多感であり、そこに向き合い、より深く分析する。もっというとそれを言語化する力がある。編集部でも、自分の感情に向き合うことを起点にしようって、よく話してるんですよ。


―売れ行きや傾向はあまり参考にしない?

その点で面白い話があって、ダイヤモンド社の営業部でこれまで何十回と開催している、全国の書店さん向けの「ビジネス書売り伸ばし勉強会」というのがあるんですよ。そこに編集者も登壇しているんですけど、そこで書店さんから必ず聞かれるのが「次のトレンドはなんですか?」とか、「次は何を狙っていますか?」ってことなんです。

確かに売れる傾向を見て、「次はこれが来る」とトレンドを狙った立て方をする編集者もいるんですけど、ほとんどはそうじゃないんですよ。世の中のトレンドは確かに頭の片隅にはある。だけど、それ以上に自分が感じている不満とか、うまくいかない部分を意識するほうが重要です。

人々が抱えている「問題」って、つまるところは「理想と現実のギャップ」ですよね。

自分の中でどうしても埋められない欠落感で悶々としている、そういうことに敏感な編集者がヒットを出しています。

だから、逆に言えば普段生活していて何も感じないっていう人には編集者は難しいと思います。いろんなことで、「うまくいかない」とか「なんでおれはダメなんだろう」って悶々としている人のほうが向いている。

世の中のトレンドをキャッチアップしていくようなやり方だと、結局は後追いの企画しかできないと思うんですよね。


<企画は法則ではなく「ロジック」だ! 良い企画はコンセプトで決まる> 

―企画について工夫している点を教えてください。

私が編集長をしている第一編集部では、フレームワークに沿って、内容をみんなで共有しながら企画をつくっています。

フレームワークはいくつかあるのですが、その1つに、コンセプト設計をするための「4マスシート」があります。著者、読者、テーマ、切り口の4つに要素を分解したうえでコンセプトを考えます。書き方は自由。箇条書きでもいいし、メモっぽくしてもいい。

つまり、企画書の前段階でコンセプトをつくるということです。これが、第一編集部の肝になっているんです。


―テーマ設定の際は具体的にどのように考えているのでしょう?

テーマっていうのは書店の棚なんですよね。つまり、書店でどのジャンルのどの棚に置かれる本なのか。よりわかりやすく言えば、「これは何についての本ですか?」って言われたときの回答になる部分です。

売れる企画といっても、なかなか掴みどころがないと思うんです。しかし、まず可視化して4つに分解する。そしてパーツごとに語っていく。これだけでかなりわかりやすくなります。

売れる本はコンセプトでほぼ決まっています。だから、いかに上流の部分を組織として関われるか、が重要になります。編集部として一つひとつの企画をブラッシュアップ、微調整し、本の骨格を着実につくっていくんです。

編集部によっては、上司がゲラのチェックなどいろいろとするんですが、第一編集部では後工程はあまり見ていません。上流の部分でより良い軌道に乗せることに力を入れているんです。


―ゴールが固まるということでしょうか。

そうなんです。本というのは後からコンセプトを変えるのがかなり難しいんですよ。変えようとすると、原稿がメチャクチャになってしまうこともあります。

だから、初期段階のうちに組織的に関わりながら調整していくことを意識してやっています。

例えば、2つのチームに分かれて、担当者とその上司が1on1でコンセプトを揉むミーティングを定期的にやっています。あるいは、筋のいいコンセプトとは何かを学ぶ「本トレ」という勉強会を、毎週木曜日に、若手や経験の浅い編集者を集めて行なうのですが、もう3年近くやっていますね。今は管理職以外は全員参加しています。

ここで揉んだ企画から5万部、10万部超のヒットが出たり、今までヒットを出したことのない人たちがヒットを出せるようになったりしています。こうした結果が出ているからこそ続いているんだと思います。

大枠の段階でブラッシュアップすることによって、上流の段階で筋のいいコンセプトにできるわけです。企画書にしてからだと、もう方向転換できないことが多いので、その前段階でより早く軌道修正する、というのが肝です。

若手が出した企画でも、「読者の顔がまだ見えにくいよね」とか「著者の強みと解決策がつながっていないよね」とか「それだとマーケットサイズが小さい」などとみんなで意見を出し合いながら、一つひとつの欠点をつぶしてより鋭く磨いていきます。

私がよく言ってるのが「企画は法則じゃない。ロジックだ」ということです。どんな企画にも売れるものには必ずロジックがあって、それが問題解決のストーリーになると思うんです。

先に紹介したコンセプトシートで大別した4つの要素(著者、読者、テーマ、切り口)は深く絡み合っていて、理想と現実のギャップを埋めていくことを大前提に考えることが大切だと思っています。

4マスシートを使うと、4つの要素のどこが弱く、どう変えれば強くなるのかがわかりやすいのです。上司が感覚頼りのアドバイスをして担当者をかえって混乱させることもなく、組織として欠点を補っていきやすいという利点があります。


うちの編集局にはヒットメーカーがたくさん集まっていて、みんなそれぞれに法則を持っています。だけど、法則は固定化されているもの。例えば「数字を使う」とか「タイトルは短く」という経験に裏打ちされた法則があっても、それがどの本にも当てはまることはあり得ません。コンセプトは本来、文脈依存的なので、届ける対象読者によって設計は全然違って来る。

だから、個々の編集者が構築する文脈に合わせて、4つの要素を組み合わせながらつくるんです。ロジックっていうのはちょっと複雑に見えて、実はシンプル。結局は、どう問題解決のストーリーを作っていくか。それだけなんです。


―こういう型やフレームワークをつくっていくことが、市川さんのおっしゃる「センスに頼らない書籍づくり」につながってくるんですね。

出版社は経験とか直感をベースにしたクラフトマンシップ的に本をつくってきた部分が少なからずあります。

私も最初は何も教わっていない中で、「先輩の背中で学べ」「先輩からノウハウを盗め」みたいなところから始まってるんですよ。だから経験豊富な人が一番偉くて、経験がない人はそれにキャッチアップするために少しずつ学んでやっていくしかない。それってすごく長い道のりで、10年かかることだってある。

だけど、最初から先ほどのようなロジックを教えてもらえれば、そんなに時間はかからないわけですよね。なので、まずはロジックをオープンにしてみんなで共有しようっていうのが、うちの編集部の取り組みの1つの狙いなんです。


―完全に理詰めの書籍づくりですね。

本は情熱がなければつくれないのは当たり前なんですよ。

毎晩遅くまで頑張って、一冊一冊つくるごとに立ち上がれないくらい消耗したり、みんな命がけでつくってるんです。それでも、売れる売れないっていうのは結構冷酷なもので、熱量の度合いだけでは決まらない。

私は、売れるか売れないかは、原稿の内容以前の、コンセプトで8割決まると思っています。

直感や経験はもちろん大切ですが、これまで編集の仕事は、そうした精神論ばかりが偏重されていたと思うんですよね。でも、人がお金を払うという購買心理には、行動経済学的にも脳科学的にもそれなりのロジックがあって、それを先に学んでいく必要があると思います。ヒットを出す編集者は、そのロジックを意識してやっているか無意識でやっているかのどちらかなのではないでしょうか。


<これからの時代、顧客に「変化」を届けることが書店の役割だ>

―これからも長く続いていく書店はどんな書店だと思いますか?

やっぱり、独自の世界観とかスタイルを持ったところに自分もよく行っている気がしますね。だから、他とあまり違いのないお店よりは、独自のスタイルを持ったお店のほうが続くと思います。

書店さんも、メガ書店とニッチな書店に二分化していく流れは避けられないと思うんですよ。でも、メガ書店を目指すのは、究極的にはアマゾンというプラットフォームに勝てるかどうかなので、その道はかなりシビアです。一方で、ニッチ書店で偏りながら細々と小商いするというのも、それはそれでアリですが、大多数の人にとってはちょっと違う話です。

これは出版社もまったく同じですが、利便性以上の価値をどう提供するかじゃないかと思います。単純に本が買えるだけなら、ネット書店のほうが便利です。あるテーマの情報が知りたいだけなら、本を買うよりネットで検索したほうが速いです。

となると、この先も長く続いていく出版社や書店は、単に便利とか、役に立つ以上の価値をつくれるところです。わざわざ行きたくなる世界観があるお店や、行くたびに発見がある場所、わざわざ紙の束を買いたくなる意味づけができる出版社ということになります。


―具体的には書店はどのような場所になっていくのでしょうか?

書店さんは、本を買う場所から、より学びの場になっていくような気がします。

出版社ではデジタルシフトが真っ盛りです。そんな中で、「紙の書籍を売ることに何の意味があるのか?」を考えると、やはり何かを学ぼうとするときに、ある程度のページ数で体系化されたコンテンツに価値があると思います。

いまの時代の人々は、学びにつながらないものに対してはお金を払わないと思うんですよ。

娯楽だったら他にもいくらでもあるし、情報も無料でいくらでもある。本にお金を喜んで払うのは、自分に足りないものを補いたいからじゃないですか。もっと言えば「変化したい」からです。変化を期待して買う。なので、変化を起こせない本は廃れていくと思います。

出版社も、本をつくる会社から、本「も」つくる、人材育成会社へと役割が移るのでないかと私は考えています。本をつくって広く流通させるという価値はどんどん目減りしているので、コンテンツを通して読者にどう変化を促せるかが大きな課題です。

同じように、書店さんも本を買う場所という役割から、読者・著者・本をつないだり、新しい発見を促したり、他にはない学びの場としてのサービスが期待されていくのではないでしょうか。読者がわざわざ学ぶために来るような、いろいろな展示やイベントを仕掛けてほしいです。リアル店舗があるというのは、学びの場としてこの先ますます強みになるはずです。


―最後に書店員さんにメッセージをお願いします。

きっと多くの人がそうであるように、私も書店さんで多くのことを学びました。かつてはリブロ池袋さんが私の学校で、ほぼ毎日通いながら、新しい発見や気づきを得ていました。そこに行くと何か新しい出会いがあるという場は、この先も多くの人にとって必要だと思います。

書店さんがずっと楽しい学びの場であり続けるように、これまで以上にワクワクするような売り場をつくってください!




【ダイヤモンド社・市川有人さん 担当新刊書情報】

●『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』ライダー・キャロル 著、2019年4月18日発刊
新刊発売!! 発達障害をもつライダー・キャロル氏が自分の頭を整理するために独自のノート術を書籍にしたもの。NewsPicksのイノベーターズトーク(5月22日)でも取り上げられ、ノート好き、手帳好きの間では、かなり人気な一冊です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07Q26SF5P/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_EZr8Cb3Y9XR3T

●『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』山口 周 著、2019
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で話題の著者の新刊が7月に発売!

●『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』牧田善二 著、2017
78万部突破!! 8月にいよいよ続編が刊行予定。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0756W3ZR1/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_W0r8Cb8E8E3C4



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3. 書店員インタビュー
「学びと体験をつくる場に」 銀座 蔦屋書店、兼頭啓悟さんの考える “編集” 目線の書店づくり
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売り上げの低迷によって斜陽産業と言われていた出版業界。そこに「おもしろみ」を感じて、書店に入社したという兼頭啓悟さん。「マンネリ化した状況を変えよう」と転職したカルチュア・コンビニエンスクラブ株式会社(CCC:蔦屋書店の運営企業)で、銀座 蔦屋書店のオープンスタッフとして配属。「書店」という場を通して社会を捉える温和な表情を浮かべる奥には、これからの書店と書店員の在り方を示す鋭い洞察がありました。


<「いかに人を呼ぶか」 アグレッシブに勝負する企画戦略>

―書店員さんとしてこれまでに兼頭さんがされてきた工夫についてお聞きしたいのですが、本を売るための取り組みはどのようなものがありますか?

取り組みとしてはやはり「フェア」と「イベント」に注力しています。僕は以前まで雑誌の担当をしていましたが、新刊雑誌の発売に合わせて特集ページの世界観を膨らませるようなフェアを展開しました。。

たとえば、有名な『BRUTUS(ブルータス)』という雑誌では、ある時「珍奇植物特集」というのをやっていたんですね。そこで紹介されている、まさしく珍しく奇怪な植物を実際に仕入れて本と一緒に並べました。。


―実際に? どうやって用意したんですか?

特集で取り上げられていた様々な植物を取り扱う「スピーシーズナーサリー」の代表の藤川さんという方を『BRUTUS』の担当の方に紹介していただき、本人と直接やり取りができました。

珍奇植物特集の時は、フェアとして展開しているとはいえ植物なので、毎日水やりをして、中には花が咲いたものもありました(笑)。実際に並べると台の上がジャングルみたいでしたね(笑)。


―書店で行なう取り組みにおいて、強く意識されているのはどのようなことですか?

特に意識していることは、やっぱり「どうしたら人が書店に来てくれるか」ですね。

ネットショッピングが当たり前になった現代において、わざわざ銀座のビルまで来て、お店のある6階まで上がって、本を選んで買うっていうのはかなりハードルが高いことだと思うんですよ。家でスマホをポチッってしたら済む。

なので、「いかにお客さんに来てもらうか」「いかに読者を増やすか」にフォーカスしています。その1つのフックとしてフェアなどの売り場づくりがあり、イベントの企画運営があります。

何をきっかけにお店に来てもらって、どうやって実際に売り場を見てもらうか。それを意識しています。


<書店も棚も「編集力」で決まる>

―フェアを展開するのは、やはり新刊が出たタイミングですか?

“フェア” というと、1冊の新刊が出たときにそれを売り込むといったイメージがあるかもしれませんが、どちらかというと、ある1冊をもとに、関連する書籍やモノへと広げるための流れをつくる作業なんです。書店員の仕事はそういった流れを編集することですね。なので、「広げる」ことを考えてフェアを打っています。

フェアは、いかに編集して売り場をおもしろくするかなんですよね。

そもそも本以外を売っている書店は他にあまりありません。蔦屋書店は何でも......というのは言い過ぎかもしれませんが、工夫次第でいろいろなものが売れるお店なので、そこは強みの1つだと思います。自分たちでいかに仕入れて売るかですね。時によっていろいろな展示販売をしています。

蔦屋書店はそれぞれの店舗でテーマがあるのですが、ここ銀座では「アートのある暮らしを提案する」というコンセプトに基づいて店舗作りがされています。そんなコンセプトがあるので、店内で展示をしていたり、ギャラリーがあったり、アート作品を販売したりしています。

―棚づくりではどのようなことを意識していますか?

各ジャンルと個々の本、両方においてそれぞれが関連し合うように置いています。

「テクノロジー」や「クリエイティブ」など平台や棚において緩やかなジャンル・テーマ分けをしていて、、さらにその中でキーワードを意識しながら並べています。例えば「モビリティ」というキーワードであれば、自動運転「MaaS(Mobility as a Service:サービスとしての移動)の本を並べておいたり、「モビリティ」の本と「スマートシティ」の本を近接させたり、個々の本から全体に関心の広げられるように意識しています。

ジャンルと書籍単体のどちらの観点でも関連させながら配置を組む、二層構造になっているイメージですね。

加えて、お客さんも想定しています。どんなお客さんで、どんなコンセプトがいいかということですね。銀座 蔦屋書店の僕が担当してるワークスタイルのこーナーでは、いわゆる「クリエイティブクラス」といわれる人たちを想定して棚をつくっています。

さらに「いかに書店として創造性を発揮するか」を意識していますね。

なので、大きな書店に行った時に「この本を仕入れよう」といったことは考えますが、やはり独自性が勝負なので、他の店での取り組みを真似したり盗んだりはしません。

本屋に行くと大抵は仕切り板があって、五十音順に並んでいたり、著者別に並んでいるなど、どこに行っても同じような書棚になっていると思います。

銀座 蔦屋書店では個々人に裁量があるので、それぞれの担当が自分で新しさを求めながら徹底的に考えて棚割りを作っています。そこも1つの強みになっていると思います。


<書店は「属人化」と「コンテンツ化」の時代へ>

―兼頭さんの思う、これからの書店員さんの在り方はどんなものだと思いますか?

書店員は本だけ読んでいてはダメで、思考を深めて、見せ方を学ぶ意識が重要だと思います。

本は世の中に向けた著者からのアウトプットなので、それを自分の中に落とし込むためにも、社会問題やテクノロジーについて自分なりの意見を持っていなければいけないんです。それが売り場や読者体験の編集力につながります。

なので、私は、本を読むだけでなく外に足を運んでいます。VMD(Visual Merchandising)と言うんですが、書店だけでなく展示を見に行ったりアート作品に触れたりすることで「見せ方」を学ぶこともできます。

今、インターネットはパーソナライゼーションが働いていて、Googleの検索結果は人によって違うものが表示され、それぞれの見ているSNSのタイムラインも別々です。それによって、人々の関心は狭まるほうに向かっていると思います。。

しかし、書店というリアルな空間は個人に最適化されていません。なので、逆にそれはチャンスになります。過去に選んだものから算出されるサジェスチョンに頼ってしまうことは、興味・関心が先細っていくだけです。「1つの興味を軸に他の分野へ大きく広げる」ことが重要ですね。

―書店としてはどのような在り方が求められると思いますか?

やっぱり書店はリアルな場所があるのが大きな強みですよね。これからは学習とか学びに対する需要がより一層高まっていくと思っていて、その中で書店は、書籍が売れたら終わりではなくて、いかに体験してもらうかが重要だと思います。。行動につなげるということです。

そういった学びの空間として書店が使われるようになればいいと思っています。なので、これからのイベントもより講座っぽくなり、深める場になるようにしていこうと思っています。

話を聞いて学びを得るだけでなく、「体験に変える」ためには、書店員の編集力がより試されるようになります。

―なるほど。具体的には?

たとえば、トークイベントならできるだけ「対談」形式にするんです。ある本の著者と、また別の本の著者との対談なら、それぞれの読者同士を交差させることができます。

哲学者と生物学者や、作家と経営者など、著者にも特徴があり、読者にもそれに応じた興味のクラスタがあります。そこを掛け合わせることで新しい反応が起きると思うんです。

やっぱり、イベントによって客層がまったく違うんですよね。哲学系のイベントとビジネス系のイベントとでは客層が違いますし、箕輪さんは箕輪さんの客層がありますし、イベントによっては女性ばかりのこともある。掛け合わせによって来てくれるお客さんが違うので、あらゆる層を呼び込めます。。

イベントを企画する時は、「次にどのジャンルの集客を狙うか?」を決めたうえで、登壇者を決めることもありますが、僕が企画する時は基本的に「僕が呼びたい人」を呼んでいます(笑)。かなり自由なので。

―兼頭さんが登壇されることはあまりない?

多くはないですが、できるだけ自分が表に出たいと思っています。去年の11月に行われた、未来の働き方に触れる「Tokyo Work Design Week」というフェスの「働き方100人会議」というイベントで登壇したことがあったんです。

そこで思ったのは、「こうして自分が表に出ることで書店に足を運んでくれる人が増えたらいいな」ということでした。

書店に限らず、チェーン店といわれるところは基本的に誰が働いているのかなんて外からはわかりませんよね。その中で、「人」がお客さんにとって1つのフックになればいいなと思っています。

どの書店も人のフィルターがかかって作られています。

その個人の変化や個性をお客さんに楽しんでもらえたらうれしいですね。あとは、もっと書店の取り組みをコンテンツ化して発信する意識が重要です。その1つとして、銀座 蔦屋書店ではイベントを記事にして公開しています。

結構、書店のWEBサイトって軽んじられがちなところがあります。。運営会社自体のサイトはあっても、書店のサイトはそもそもなかったり、あってもWindows98で作ったのかと思ってしまうほど雑に作られていたりするんです。

しかも、運営会社のサイトでは書店の情報は住所と電話番号だけで、店舗ごとのおもしろい取り組みやフェアが紹介されていないところが非常に多いです。

でも、私は、WEBサイトを充実させるのはもちろん、ツイッターやインスタグラムなどのSNSをもっと活用することも、書店に必要な力だと思っています。

なので、先ほど言った、書店員が表に出るというのは、物理的に前に出て喋るのと、WEBへの露出を増やすことの2つの意味があります。


いわゆるパターン配本に象徴されるような、書籍が効率的に各店に分配されるシステムに頼ってしまうことは、入荷してくる本を右から左に流すような作業なので、言ってしまえば意外と誰でもできることかもしれません。そんな効率化の波から抜け出し、どんな本を売りたいのか・どんな本が重要なのかを考えていかなければ、おもしろいものはできません。


個人が考えてつくる書店がこれから重要なカギになると思います。

属人化して個の発信力を強めること。

それが今の書店員に求められていることではないでしょうか。



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4. 書籍インタビュー
「どうすれば人生の好循環が生まれるか、ずっと考えています」
我慢することが大キライな勝間和代さんの人生術
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すべてはこの人から始まった。
ブログ、メルマガ、Twitter。今では当たり前になった多くのメディアを最初に使い始めたのは勝間和代さんだった。多動力、セルフブランディングといった、昨今流行りの生き方も10年以上前から実践している。卓越したスピードと行動力で常に時代を先取りし、これまで多くのムーブメントを巻き起こしてきた勝間さんに、未来を見通す力や充実した人生をおくる秘訣、書店の未来像について伺いました。


<”手数×利他性×平準化”で圧倒的な成果を生む>

ーブログ、メルマガ、Twitter、オンラインサロン、あるいは著作PRのための書店回り。現在多くのインフルエンサーが取り組んでいることは、元を辿るとすべて勝間さんが「元祖」だった印象を受けます。どうすればそんなに未来を見通すことができるのでしょうか?

私の場合、すべてはご縁なんです。「勝間塾」というオンラインサロンも私が積極的に始めたというよりは、株式会社監査と分析を私と共同で経営している上念司がずいぶん前から「やろう!やろう!」とうるさくて(笑)。それで始めたんですね。

書店回りも、私が始めるよりも前にすごく頑張っていた人たちがいて、その話を聞いた時に出版社から「勝間さんもやりますか?」と提案されたことがきっかけです。Twitter も「アメリカですごい流行ってますよ」と知人から教えられて始めました。

すべて人から勧められたものを素直に実行しているだけなんです。いろいろ試しているなかで、たまたま当たったものがフォーカスされて「先見の明がある!」みたいな言われ方をしてるだけなんですね。ハズレたものもたくさんあります。未来を見通すことなんて基本的には不可能ですよ。

ー人から勧められてそれを素直に実行したとしても勝間さんほど成果を出す人は稀だと思いますが。

人間の能力の平均を1とすると、すべての人間の能力は0.8~1.2の間に収まると思うんです。ではなぜ人によって成果が違うのかというと、周囲の人の力を借りられるかどうかなんですね。

本人の実力が0.8しかなくても、周囲の力を借りられる人は多くのことを成し遂げられますし、逆に1.2の実力があったとしても、周囲の力を借りることができなければ、1.2の成果がMAXになってしまうんです。

ー周囲の力を借りるためのコツは何ですか?

それはすごい簡単です。他人のためにできることを全部やるんです。親切は貯金と一緒で、貯めていればいつか返ってきます。私は10年以上、毎日欠かさずメルマガで情報を発信しています。そうすると私が困っている時に読者が情報を教えてくれるようになるんです。

例えば昨日、私が「飼っている猫が吐いた」というエピソードをメルマガに掲載したのですが、それを読んだ人たちが対策を教えてくれたりするんですね。ソファシートを安いものに変えたほうがいいとか、防水シートを敷くとか、バスタオルを敷くとか。そういったことが起こるんです。

ーそもそも10年以上も毎日欠かさずメルマガを発信する継続力がすごいです。。。

歯磨きと一緒ですよ。毎日発信していると気にならなくなります。要は平準化するんです。活動に上下動を作らないことが大切です。人間は毎日の行動に差があるとつらくなるんですよ。メルマガの発信を週3回にしようとするとつらいんですね。毎日発信したほうがぜんぜん楽です。

これは運動や早起きなんかもそうです。私は毎日1万歩を歩くことにしているんですが、毎日必ず歩くと決めると何の苦もないんですよ。早起きに関しても、毎日早起きをしていればストレスはなくなります。

<「みんな”崖”が見えていない」中長期的に最も楽な方法を選択する>

ーうーん。僕なんかどうしても怠けたくなっちゃうかもしれません。

人間は基本的に全員怠け者なんです。なるべくエネルギーを消費しないように動くのが人間の性質です。お勧めされたことをやってもいいし、やらなくてもいい。それが当たるかどうかわからないので、コストのかからないものはやってみりゃいいじゃん、というぐらいのことなんですよ。

ー例えば最近の勝間さんの著作である『勝間式超ロジカル家事』に書かれていることを実行しようとすると、多くの家電製品を購入しなければいけないじゃないですか。これには結構コストがかかると思うのですが。

私はお酒も飲まないし、タバコも吸わないんです。お酒代やタバコ代に比べたら、家電製品にかかる金額なんか大した金額じゃないですよ。将来を考えた時、自分にとってマイナスになるような出費は一切しないと決めちゃえばいいんです。私は中長期的みて1番楽な方法を選択しているんですね。短期的に楽でも中長期的に苦しい思いをすることが嫌なんです。

ーああ。。。僕なんかついつい目の前の快楽を求めてしまいます・・・。

正しい情報を収集することですよ。お酒や砂糖を摂取することは、健康に多くの害があることがわかっています。非常にシンプルに言うと、人間はそこに”崖”があると認識していたらわざわざ落ちるような行動はとらないですよね。

でも、多くの人はそこに”崖”があることが見えてないんです。だからリスクがあることを平気でしちゃうんですね。私は1ヶ月に1回は必ず歯医者に通うようにしています。理由は非常に単純で、歯周病や歯根の膿が万病の原因であることがはっきりしているからなんです。だから歯のケアをしないとか怖すぎるんですよ。

—すべてのリスクに対策をたてると時間が足りなくなりそうですが。

必要のない時間を削ればいいんです。例えば私はマスメディアを一切見ません。テレビは見ないし、新聞や雑誌も読みません。 今はテクノロジーがだいぶ進化しました。仕事量は同じでも、昔と比べて明らかに早くできるようになっています。在宅勤務などの柔軟な勤務体系も認められつつあります。そうした流れを少しずつ自分の生活の中に取り入れて、生み出された時間を人生を豊かにするために投資していけばいいんです。


<成長とは余裕をつくる力を身につけることだ>

ー今回出版された『勝間式超コントロール思考』では、余裕率を確保することの重要性が記載されています。一方で、何かをコントロールしようとした時にGRIT(やり抜く力)もすごく大切だとおっしゃられています。少し疑問なのですが、何かをやり抜こうとした場合、人間は余裕がなくなってしまうのではないでしょうか?

余裕率を確保したうえでやり抜く、ということが大切なんです。余裕率がなくなってしまうと自分の人生のコントロール権を失ってしまい、結果としてすべてのクオリティが落ちてしまいます。基本的に人は見込みが甘いんですね。

何かをする時、実際にかかる時間よりも少なく見積もることが大半です。でもだいたい予想外のことが起こってすぐに余裕がなくなってしまうんですよね(笑)。

ーなんか経験あります。。耳が痛い(笑)。

生まれた時には人間はみんな精一杯なんですよ。そこから成長することがどういうことか考えた場合、私は余裕をつくる力を身につけることだと考えているんです。時間とお金の余裕があればだいたいのことはなんとかなります。

企業に勤めている人は、毎日9〜10時間働いてしまうので、その時間を除いたら、あとは睡眠とちょっとした身の回りのことをする以外の時間が残らないんですね。20代、30代のうちは私はそれで構わないと思っているんです。でもそれを60代まで続けますか?ということを考えながら人生設計をしてほしいですね。

ー自分の人生をもっと長期スパンで考えるべきだということですか?

私は我慢が大っキライなんですよ(笑)。どうすれば我慢をせずに済むのか、常にそのことばかりを考えています。私は世の中で起きていることをシステムとして捉えるのが好きなんです。どういう形にすれば好循環が生まれるのか、あるいは悪循環を止められるのかということをずっと考えています。

生きるうえで必要なお金を稼ぐ時間ってあるじゃないですか。1日のうち何時間働けば、生活できるのかもっと真剣に考えるべきだと思いますよ。衣食住を賄えるだけのお金があったら、残りは何しててもいいわけですよね。それが別に仕事でもいいし、娯楽でもいい。それをどうやって我慢しないようにコントロールするかということだと思うんです。

我慢するとストレスが溜まって、お酒やスイーツにはしって結局健康を害するんですよ。だから自分の人生をコントロールするためにはまずは「我慢」をやめることなんですよね。


<勝間和代さんが予見する未来の書店の姿とは>

ー勝間さんは本の大半をKindleで購入されているそうですが、今後、紙の本はどうなると思いますか?

紙の本は文字を購読するための一形態に過ぎません。音楽におけるCDが一番近い比喩になるのではないでしょうか。なくなりはしないと思いますが、私たちが文字を読む一形態になっていくんじゃないかなと思っています。今は、紙に何かを印刷する機会があらゆる場面でなくなってきているじゃないですか。その流れですよね。

むしろサイン本とかイベントに参加するためのチケットだとか、そういった形での需要が多くなってくるかなと考えています。紙の本の活路はプレミア品や記念品、あるいはお土産といった形にあるのではないかなと。それに合わせる形で出版社も書店も変わっていくのだと思いますね。

ー若者の活字離れの風潮に危機感はありませんか?

それは全然ありません。実は文字を使うシーンはめちゃめちゃ増えてるんです。みんなブログとかTwitterとかすごい読んでるわけだから。別に文字を読んでないわけじゃないんです。昔は電車のなかで、おじさんたちが新聞を細長く折って読んでたけど、今は携帯を見て過ごしているわけですよね。ですから文字自体の活路は全然ありますよ。

マスメディアを一切見ない私が未だに本を読み続けているのは、本でなければ得られない情報が多いからです。本はこちらの知りたい情報が一通りまとまっていますし、興味のあるジャンルの本をまとめ買いすることも可能です。調べる時間を短縮できますので本は本当にコスパがいいですよ。

ー勝間さんが書店を経営したとしたらどういう書店にしますか? 

いわゆる複合型ですね。カフェがあったり、文房具店があったり、イベントスペースがあったり。本の周辺にあるものをセットで売り出していくのがいいと思っています。あと、Kindleではなく、店頭で見たほうが面白い本はたくさんあります。大型のカラー印刷本なんかがそうです。

写真集や絵本、スポーツの教本、レシピ本、そういう紙に向いた本はやはり店頭で見たいじゃないですか。ベストセラー本ばかり置いてもしょうがない。そういった部分はKindleにシェアをとられていきますのでこれから先は厳しくなっていくんじゃないでしょうか。

ーリアルならではの良さを活かすということでしょうか?

私の知り合いに「佐川印刷」という会社があるんですけど、もう何十年も前に、この先、普通の印刷では絶対に食べていけないことを察知して、グラビア印刷に特化したんですよ。ドイツからすごい高い機械を買ったり、社員を研修に行かせたりして、デジタルでは絶対出せない品質の印刷にしか活路はないと割り切って勝負してるんですね。

株式会社DMMだって、元々はレンタルビデオ屋さんじゃないですか。でもそれでは絶対に未来がないと感じてオンラインへ進出したし、最近は映像だけじゃなくて多方面へビジネスを拡大させていますよね。ああいう感じの企業がロールモデルになるんじゃないかなって思っています。ちゃんと自分たちの価値を見極めて、そこで勝負しなきゃってことですよね。

『勝間式超ロジカル家事』
https://www.amazon.co.jp/dp/B0793PRS7G/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_2Xr8Cb7DGMVKM



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5. あとがき
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ご登録いただきありがとうございます。『箕輪書店だより』編集長の柳田一記です。5月号では『勝間式超コントロール思考』の著者・勝間和代さん、ダイヤモンド社の編集者・市川有人さん、銀座 蔦屋書店の書店員・兼頭啓悟さんにインタビューさせていただきました。

余談ながら、大学を卒業した私がはじめて手にしたビジネス書が、当時発売して間もなかった勝間和代さんの『無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法』でした。自分の生活にすぐに落とし込むことができる実用性、納得感のあるロジックに魅了され、私は「勝間作品」の虜となりました。以来、勝間さんの著作はすべて読んでいます。ですので、今回、私がビジネス書を読むきっかけを作ってくれた勝間さんにインタビューさせていただいたことは個人的に感慨深いものがあります。

勝間さんのお話で印象的だったのは、自分の目の前で起きている事象に一喜一憂するのではなくシステム全体から捉え直しているところです。

「何かうまくいっていないことがあれば、その部分だけにフォーカスするのではなく、生活全体をシステムとして捉えて、どの部分が不適合の原因となっているを分析する。そしてそこを改善していくんです」ー インタビューのなかで、何度もそう主張していました。

同様の考え方は市川有人さんのインタビューでも垣間見れます。企画の上流、コンセプトとなる部分をフレームワークを駆使して徹底的に磨き上げる。企画全体を俯瞰して眺め、企画のどの部分に問題があるのかを解像度をあげて把握する。そして問題となる部分を解消していくことでヒット作を連発しています。

世の中に現れている結果はすべて表面的なものであって、その原因はまったく別の部分にあるのかもしれない。そう考えさせられる5月号でした。

『箕輪書店だより』では、これからも読んで勉強になる、ワクワクするような内容をお届けしていきます。中には私のように思い出深い方との再会があるかもしれませんね。

感想や、ご意見ご要望、冊子送付などご要望がございましたらハッシュタグ「#箕輪書店だより」をつけてTwitterでつぶやいてください。箕輪編集室のメンバーがすぐに伺います。
では、来月もメルマガでお目にかかれることを楽しみにしています。


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<箕輪書店だより 5月号>

編集長 柳田一記

*取材...柳田一記・柴山由香・金藤良秀
*書き起こし...奥村佳奈子・根岸千紗都・菅井泰樹・山本昂輝・河地真里・イノウエカズオ・金藤良秀
*執筆...柳田一記・柴山由香・金藤良秀・柴田佐世子
*制作協力…柴山由香

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